3 後期旧石器時代

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 約三万年前を境に、いくつもの縦長剥片を連続的に作り出す石刃技法(せきじんぎほう)と呼ばれる石器の作り方によって特徴付けられる後期旧石器時代に移行し、多摩丘陵でも遺跡数が増加する。後期旧石器時代は、石刃技法が未発達で台形様石器と呼ばれる独特の石器が伴う前半期と、それ以後の後半期に二分され、後半期はさらに細かく細分される。
 普通に石を打ち欠くと剥片の大半は貝殻状の剥片(横広剥片)になる。これは石の物性による物理的現象である。したがって、意図的に縦に長い剥片を剥離するためには、こうした貝殻状の剥離を避けるように石の割れ方をコントロールする必要がある。簡単に縦長剥片を得る方法としては、直方体の角の部分を剥離するか、幅の狭い直方体を用いれば良い。つまり、剥離しようとする面に角度を用意することで、石の割れは貝殻状に発達せず、縦長の剥片が製作できる。石刃技法では、この剥片剥離作業面の管理が大きな特徴の一つである(図4―6)。

図4―6 石刃の取り方の順序模式図(D.E.クラブトリー原図より転写・加筆)

 石刃技法は後期旧石器時代前半期では完成されたとは言えず、徐々に完成された石刃技法へ移行したと想定される。また、こうした縦長剥片への志向性を中期旧石器時代の新しい段階から認め、中期旧石器時代から後期旧石器時代への移行期を設定する考えもある。
 縦長剥片への志向性が生まれた理由については明らかでないが、縦長剥片は横広剥片に比較して鋭利な縁辺がより多く作り出されるという報告がある。より効果的に鋭利な縁辺を作り出そうと努めた結果であろうか。