図4―23 陥穴
図4―24 陥穴の配置(共に東寺方遺跡)
多摩市落合棚原のNo.七四〇遺跡では、調査面積二六七一〇平方メートルから四九三基が発見されている。この遺跡ではある型は直線的に並び、別な型はまとまって分布するなど、陥穴の形態と配置法に相関関係が確認された。これなどは狩猟方法の違いとともに、獲物の違いをも物語るものであろう。また、単に陥穴に獲物が落ちるのを待つだけでなく、シシ垣やシカ垣を設けて獲物を導く方法や罠猟なども行われたと推測される。多摩丘陵では陥穴以外の狩猟法を示す遺構は未発見であり、今後の課題であろう。このほか、狩猟に伴う遺物として弓矢があり、多摩市内でも縄文時代の石鏃が多量に出土している。多摩市内ではないが、埋葬されたイヌも貝塚から発見されており、イヌが狩猟に活躍したこともあったであろう。
多摩丘陵の遺跡から獣骨は出土していないが、他地域の貝塚からの出土例や多摩市連光寺の農林水産省多摩試験地(旧鳥獣実験場)の捕獲鳥獣類から推測すると、丘陵部における狩猟動物類として次の種類があげられる。
獣類…イノシシ、シカ、サル、タヌキ(ムジナ)、キツネ、アナグマ、イタチ、ネズミ、リス、モグラなど。
鳥類…マガモ、マガン、ワシ、タカ、トビ、キジ、ヤマドリ、ウズラ、ホオジロ、ツグミ、サギ、スズメなど。
鳥類の捕獲は他の動物と比べると、貝塚などでの出土例でも種類、量ともに少ない。しかし、千葉市谷津(やつ)貝塚のように鳥類の骨が哺乳類より多量に出土した例もある。各遺跡の立地する環境や猟場によって獲物の種類に多少の違いはあるが、現在でも山鳥や川鳥の豊富な多摩丘陵では、縄文人も鳥も食べたことは間違いない。鳥類の捕獲にあたっては、弓矢とともに網も利用されたであろう。