動物文様には前期前半の諸磯式土器様式にみられるイノシシなどの獣面類がある。図4―28―5は向ノ岡遺跡出土の諸磯b式土器の口縁に表わされた獣面である。イノシシか他の動物かわからない。中期前半の勝坂式土器様式になると、様々な文様が登場する。和田・百草遺跡や多摩ニュータウンNo.四六遺跡出土土器だけでもヘビ、カエル、トンボ眼鏡状などがある(図4―16―4・図4―28―1)。このほか、稲城市坂浜の多摩ニュータウンNo.九遺跡では、北陸地方の前期から中期に出現する水鳥も出土している。
人のモチーフとしては、人体文(図4―28―3)や類似モチーフ(図4―28―2)がある。把手に人面様のものがあり、顔面装飾付把手と呼ばれている。土器を抱えるように内側を向くもの(図4―28―4)と、土器を背負うように外側を向くものがある。その表情は人に似ているが、土偶同様、縄文人の「カミ」「精霊」を描いたものかもしれない。また、中期後半の加曾利E式土器様式に表出される横S字文も、東日本で広く使われた文様であり、東関東はクランク状に、新潟の火炎土器では把手に、東海地方では縦S字文として変容する。これらのモチーフは土器文様の要所に配され、森羅万象にカミを見いだし、自然への畏敬を感じた縄文人の心象であり、世界観を表わすものであろう。
図4―28 土器にみる縄文人の世界
縄文土器のある形式にはある特定のモチーフが表出される場合があり、かつ、モチーフの単なる繰り返しでは表出されず、非対称の類似モチーフの変化配置となっている。土器文様には縄文人の土器作りと、そこに展開された精神世界・世界観が表現されている。まさしく、意識の深層から語り継がれ表象されたモチーフなのである。