1 黒曜石

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 黒曜石はガラス質の火山岩で、主に前期以後、石鏃や石匙の材料として用いられた。黒曜石の原産地は全国で約七〇か所が知られ、自然科学分析で約一〇〇個の原石群が確認されている。関東地方では主に信州系、伊豆箱根系、伊豆諸島の神津島系の黒曜石が用いられた。しかし、多摩地域から最も近い箱根系の原産地まででも、直線距離で約六〇キロメートルある。多摩市域出土の黒曜石の分析に関して、京都大学の藁科哲男氏の注目すべき研究がある。和田・百草遺跡出土の中期前半の黒曜石五〇点の分析では、神津島産三八点、長野県霧ケ峰産三点、静岡県柏峠西産八点、不明四点という結果が得られている。
 多摩市域で用いられた黒曜石の産地からの「石の道」には、神津島からの伊豆諸島ルート、伊豆箱根ルート、長野から甲府・相模川を経る甲府・相模ルート、甲府から多摩川を経由する奥多摩ルートがあり、前期から中期には遥か南の神津島から運ばれ、晩期にこのルートが途絶えている。

図4―29 石材や土器のつながり・交易(中期を中心として)