はじめに

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我々の生活の舞台としての社会は、気候を代表とする自然現象によって大きく左右されている。とくに中世を含む前近代の社会においては、食料生産から地形の変化にいたるまで、生物としての人間の生存には、現在の我々に考えられないほどの影響を与えていた。そして、人々は自然の変化による影響を少しずつコントロールしていきながら現在に至っているのである。しかしながら、現在の技術力をもってさえしても、自然の変化に起因する災害や飢餓からすべての人々を救うことはできない現状にあることも事実である。これから多摩市域を中心とした中世の人々の活動に目を移す前に、本節では中世における多摩市域の人々がどのような条件の中で生活していたかを確認することにする。方法としては、最初に自然地理的状況を、次に人文地理的状況を順に概観する。
 ところで、日本史において中世という時代区分は、一般に鎌倉時代・室町時代・戦国時代を指すが、ここでは治承四年(一一八〇)から天正十八年(一五九〇)までを主な対象とする。