関戸合戦に関して、多摩市内には同時代の史料は残されていないが、いくつかの関連する伝承が伝えられている。ところが、伝承史料はその内容が事実であったかどうかを確認することが困難で、通常歴史叙述には無視されるか、あるいは重要度が低い傍証史料として利用されることが多く、伝承自体に詳細な検討を加えることは少なかった。しかし、真実であるや否やは別にして、伝承も地域の歴史的産物であることは間違いなく、地域史を研究する際に伝承と他の歴史資料との比較や、伝承形成過程を検討することはあながち意味のないことではなかろう。
近年、小野一之氏は新田義貞の鎌倉攻略に関する伝承地を詳細に検討されており(小野一九九三・一九九五、府中市郷土の森博物館一九九四)、以下小野氏の研究に従いながら多摩市内の関戸合戦の伝承地について概観し、可能な限り伝承の形成過程まで検討したい。
小野一之「新田義貞鎌倉攻略の伝説地について」『鎌倉』七三、一九九三年
小野一之「伝承―地域から見た合戦―」『歴史手帖』二三―一一、一九九五年
府中市郷土の森博物館『合戦伝説』一九九四年