長弁の活動

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十四世紀後半から十五世紀前半にかけて、多摩川流域において宗教活動を精力的に行なっていた僧侶に調布深大寺の僧侶長弁がいる。浮岳山深大寺は、調布市深大寺元町に所在する天台宗の寺院で、長弁による「深大寺深沙大王宝前戸張奉懸の意趣書」(『私案抄』)によれば天平宝字六年(七六二)の創建とあり、寺伝では天平五年(七三三)に満功上人の開山とある。
 長弁は、貞治元年(一三六二)の誕生と考えられ、深大寺本堂の本尊阿弥陀如来座像背板銘によれば、永享八年(一四三六)七五歳の時には深大寺第五二代の院主であった。その長弁が残した『私案抄』は、二二歳から五〇年ほどの間に長弁が作文した諷誦文・意趣書・願文・勧進状・表白文などを集成したもので、現存するものは全て写本である。長弁が残した文章は、京都市左京区一乗寺竹ノ内町に所在する天台宗曼殊院所蔵の『勧進帳彙』にも一一編が採録されており、遠く京都にも知れわたっていたが、『私案抄』自体が世に広められたのは、江戸時代後期の国学者で塙保己一の門弟であった中山信名が、偶然に江戸柳原の骨董商で買い求め、『続群書類従』により刊行された事による。『私案抄』には、五七編の文章が載せられているが、ほとんどが周辺地域における仏教行事で使われたもので、多摩川流域の仏教世界を知る絶好の史料である(調布市一九八五・小川一九九五)。以下、いくつかの事例を見て行く事にする。
  調布市市史編集委員会編『深大寺住僧長弁の文集 私案抄』一九八五年

  小川信「中世深大寺の僧長弁の活動と調布周辺」『調布史談会誌』二四、一九九五年