祝儀 出産の場合

925 ~ 928
子どもが誕生した時の祝儀帳は、天明五年(一七八五)に始まり安政五年(一八五八)まで五冊残されている。表6―28は、その祝儀品の分類表である。葬儀や婚儀の場合に比べ、五回の合計で貨幣の件数は一七件、金額にして五貫八〇〇文であるが、現物持参の場合の件数は二二五件で、圧倒的に品物を贈られている場合が多い。品物のうちもっとも多いのは鰹節一本ないし二本の持参者で、約半数に上る。ついで白米二升が四人に一人、ほかに麻苧、産着・反物など衣類や、餅、紙も若干みえる。鰹節が出産祝いの祝儀として定着している様子が窺え、米や衣類の多いのは、「おじ」・「おば」や嫁の里方といった親類、村内でも日常的なつきあいのある親しい間柄の人々からの祝儀が大部分を占めたからであろう。貨幣は銅銭・金貨ともに天保期からいくらか増える傾向を帯びる。しかし対象となる件数が少なく、香典や婚礼の祝儀の場合のように、品物が減って貨幣化するといえるかどうかはわからない。
表6-28 石阪好文家出産祝儀項目別分類表
項目 貨幣
青銅 文換算計 件数計
No. 西暦 年号 100文 200文 300文 10疋 30疋 100疋 1朱 2朱
1 1785 天明5.6 1 250 1
2 1793 寛政5.10 1 100 1
3 1811 文化8.4 1 300 1
4 1838 天保9.10 2 1 3 1 1950 7
5 1858 安政5.11 1 3 2 1 3200 7
件数計 1 5 1 1 1 2 4 2 17
同百分比 0.4 2.1 0.4 0.4 0.4 0.8 1.7 0.8 (7)
文換算高計 100 1000 300 100 300 2000 1000 1000 5800
同貨幣種別計 1貫400文 2貫400文 2貫文
同百分比 24.1% 41.4% 34.5%
 
現物 貨幣・現物 祝儀持参者数
鰹節 鰯干物 白米 衣類 麻苧 件数計 件数 集団 寺院 百分比
1本 2本 本数不明 2升 量不明 合計 百分比
9 4 5 18 19 7.8 9 9 18 11.0
17 12 6 1 7 1 1 45 46 19.0 6 32 38 23.3
16 12 12 1 4 45 46 19.0 28 5 33 20.3
23 1 20 8 6 58 65 26.9 33 2 1 36 22.1
18 21 5 15 59 66 27.3 37 1 38 23.3
83 28 6 1 59 7 1 17 22 1 225 242 113 46 3 2 163
34.3 11.6 2.5 0.4 24.4 2.9 0.4 7.0 9.1 0.4 (93) 100% 69.3 28.2 1.9 0.6 100%

 興味深いのは、寛政五年(一七九三)まで、例えば「何右衛門内方」という表し方で、妻の名義で出された祝儀が、文化八年(一八一一)度からは女性は「おば」または後家に限られ、男名前に移行していることである。祝儀帳の表題は「平産」・「安産」・「初出産」と一貫して変わっていないが、女たちの出産を媒介にした女性中心のつきあいが、後継者の誕生として認識され、男性中心の「家」のつきあいへ変わっていったのではないだろうか。婚礼祝儀の場合よりずっと遅れて、このあと天保九年(一八三八)の出産の際から、「和田村中」とある地域全体での祝儀や檀那寺高蔵院の名がみえるのも、その裏付けととることができよう。