そうした政策を実行するため、明治五、六年頃から、政府は在来産業について各村に調査を命じ、「数目調書」や「物産取調書」などとして提出させていた。これにより在来産業の実態を知ろうとしたのである。これらの取調書から多摩の生産物の概要を探ってみよう。
まず、明治五年(一八七二)における第三二区の生産物の概要を示せば、表1―2―5のようになる。この表の基になった「物産取調書」では、自家消費分(自用費消)と他地域への販売用(他国輸出)に区別されているが、前者として一五品の生産物、後者として一〇品の生産物があげられている。前者のなかでは米以外の穀物が多く、この地域が畑作中心であることを物語っている。また、販売用の生産物のなかでは、玉川鮎、目籠が多摩地域の特徴を示す生産物といえる。鮎漁が多摩の地域産業のひとつだったことは、今となっては知る人も少ない。
自用消費 | 他国輸出 | ||
米 | 4,473石7斗 | 鶏卵 | 25,000 |
大麦 | 6,984石 | 玉川鮎 | 3,000籠 |
小麦 | 1,862石4斗 | 柿 | 200駄 |
大豆 | 931石2斗 | 生糸 | 350貫目 |
小豆 | 232石8斗 | 炭 | 19,500俵 |
蕎麦 | 931石2斗 | 薪 | 5,000束 |
粟 | 1,396石8斗 | 目籠 | 20荷 |
稗 | 1,396石8斗 | 馬沓 | 3,000疋 |
菜種 | 116石4斗 | 藁縄 | 5,000房 |
里芋 | 9,312駄 | 莚 | 17,500枚 |
薩摩芋 | 3,000駄 | ||
酒 | 100石 | ||
濁酒 | 50石 | ||
醤油 | 100石 | ||
油 | 23石5斗 | ||
また、大小区制が施行されてまもない明治七年(一八七四)七月、第八大区では風土記を作成し、各小区ごとの概況をまとめていた。市域が属した六小区と八小区について、物産の項目をみれば、前者には生糸、醤油、清酒、絞油、筵、炭薪、後者には米、麦、大豆、小豆、粟、稗、胡麻、菜種、糸、蛹、桑、茶が記載されている(資三―89)。これらは蛹を除いて、当然ながらすべて表1―2―5であげた品目と一致する。前者に米や野菜類が含まれていないのは奇異に感じるが、それぞれの地域の特徴は表わしているだろう。このなかでは醤油、清酒などの醸造品が六小区に集中しているのが目立つ。当時はこれらも農間余業として生産され、村の産業として成り立っていた。ただし、六小区に属する和田村では醸造品は生産されておらず、多摩市域では醸造業は盛んでなかったといえよう。