市域の生産物

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次に市域の生産物について、ややくわしくみてみよう。表1―2―6および表1―2―7は、寺方村と和田村の生産物と収穫量である。寺方村については、収穫量では米・大麦などの穀類が多いとはいえ、注目に値するのは桑・繭・生糸という養蚕・製糸に関連する産物であろう。のちに述べるように、養蚕はもともと農間余業として行われていたが、多摩市域の養蚕はこの時期から本格化し、急速に養蚕地帯として発展してくる。また、柿も多摩の生産物として名が知られている。寺方村の一年間の柿生産量を四〇駄とすれば、第三二区の生産量の五分の一を占めることになる。

図1―2―3 多摩の柿(禅寺丸)

表1―2―6 寺方村の生産物一覧
(明治5、6年)
品目 生産量 備考
304石4斗  
うち 117石6斗6升 貢納
186石8斗   自用費消
71石4斗   他国輸出
大麦 263石2斗  
小麦 56石4斗  
大豆 30石   
小豆 7石   
30石   
30石   
蕎麦 15石   
胡麻 2石   
菜種 5石   
家禽 120羽   
300駄   
うち 220駄    自用費消
80駄    他国輸出
40斤   
48貫目  
生糸 5貫目  
80駄   
杉田卓三家文書より作成。

表1―2―7 和田村の生産物一覧(明治9年)
品目 生産量 生産額
円 銭
250石 1128.90
大麦 150石 230.17
小麦 5石 17.14
上大豆 16石 71.47
下大豆 24石 100.48
小豆 5石 29.41
65石 144.44
10石 11.11
蕎麦 5石 12.50
麺粉 35石 87.50
蕎麦粉 15石 50.00
味噌 562貫500目 39.38
15石
蘿蔔(大根) 150駄 56.25
蕪菜 50駄 25.00
100駄 70.00
薩摩芋 150駄 90.00
茄子 20駄 20.00
菜子(菜種か) 7石 41.17
110羽 11.00
鶏卵 1,800個 10.80
製茶 8貫目 12.00
生糸 20貫目 600.00
熨斗糸 4貫目 26.67
目籠 5荷 25.00
1,500駄 18.00
300貫目 120.00
150駄 21.45
その他 39.48
合計 3,109.33
「資料編三」No.69より作成。
注)収穫額10円未満の品目はその他にまとめた。その品目は以下の通り。
  裸麦、大角豆、胡蘿蔔(人参)、牛蒡、胡麻、梅子、栗、藁筵、藁縄、馬(金額不明)

 和田村は生産物が多岐にわたっているが、各品目の生産額の比較からみれば、米が圧倒的に多く、畑で作られる穀物・野菜類をあわせた額を超えている。米以外では生糸が多く、和田村の特色となっている。さらに注目したいのは目籠の生産で、やや年代が離れるとはいえ、表1―2―5でみた第三二区の生産量の四分の一を占め、多摩市域の特産品のひとつとなっている。
 こうした農産物ばかりでなく、天然氷を製造販売するという、ユニークな産業が多摩市域に生まれていた。これは多摩氷商会によって行われていたが、くわしいことは明らかではない。その設立年にしても、明治四年(一八七一)という説がある一方(民―266頁)、「富沢日記」には、明治十一年(一八七八)の十月から十二月にかけて、氷製造について村用掛と総代人で協議したり、この件について相談するため、東京から何人かの人物が連光寺村を訪れたりしていて、この時期に設立されたとも考えられる(富沢政宏家文書)。このユニークな産業の実態を知ることができるのは明治時代の後半になってからである。