南多摩郡自治会の設置

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日露戦争後の不況期に、内務省を中心に進められた地方改良運動は、戊申詔書を基本に据えて大正時代にも推進された。とりわけ内務官僚として地方改良運動の先頭に立っていた井上友一が、大正四年(一九一五)七月、東京府知事に就任すると、東京府の行政に地方改良運動を反映させていった。井上が主張する地方自治は、井上の著『自治要義』に示されているが、「地方改良と地方自治はことばこそ異なれ全く同義的」であるとされている。
 井上友一が東京府知事に就任し、本格的に地方改良運動を進めていったと考えられる大正六年(一九一七)の七月、南多摩郡においては、新しく南多摩郡自治会が発足した。その自治会の「設立趣意書」によると、戦後において行政事務担当者はより一層「地方開発、産業ノ振興」に努力しなければならない、にもかかわらず自治行政担当職員・名誉職員・実業家それに有職者が一致協力して町村の開発・振興を協議する機関が無いのを遺憾とし、前途を考えて自治会を設置する理由を述べている。それに続いて「綱領」(図1―7―3参照)を掲げている。

図1―7―3 南多摩郡自治会設立趣意書

 井上府知事は地方自治の振興開発を図ることについては、講習・講演会を開催し、有益な印刷物等を配布して自治思想を涵養し、優良な団体又は吏員を表彰して他の一般を奨励し、或は各地を視察見学して見聞を広めることと訓示している(『東京日日新聞』大正七年一月十八日付)。
 設立当時の「南多摩郡自治会規則」では、その「事業概目」が「一、地方改良ノ研究奨励及実行、二、参考資料ノ頒布、三、講演会ノ開催」とされた。また大正十二年五月に改定された「南多摩郡自治会会則」において、「事業概目」は、より具体的に「一、地方改良事業ノ調査研究 二、参考資料ノ配布 三、会報ノ発行 四、講習会・講演会・研究会・懇談会等ノ開催 五、地方改良資料ノ陳列展覧 六、地方改良功労者・篤志者ノ表彰 七、町村吏員ノ慰藉 八、町村吏員ノ養成 九、其ノ他必要ナリト認メタル事項」と定められた(『南多摩郡自治会会報』二七号)。
 組織は南多摩郡内行政関係者と有志で構成し、会長は南多摩郡長、副会長は町村長会々長が就任するとした。経費は会費、寄付金、補助金その他の収入をあてると決めている。