木炭

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木炭についても触れておきたい。地理学者の福宿光一は、「近郊丘陵地帯の製炭―東京都下南多摩郡の場合―」『山梨大学学芸学部研究報告』第一五号(昭和三十九年)のなかで、多摩村の製炭について論述している。以下、福宿論文によってみてみよう。
 多摩村は薪炭の生産地としても令名を馳せていた。電気やガスや石油が普及する前は、薪炭が家庭用燃料の首座にあり、多摩村産の木炭は「佐倉炭(ずみ)」として好評を博していた。本来は、千葉県下総台地の佐倉近辺で生産された炭だけを「佐倉炭」とするべきなのであろうが、「佐倉炭」の製造技術が南多摩の丘陵地帯に導入されたことから、南多摩の炭も「佐倉炭」と称するようになったらしい(導入時期は明治三十四年頃という)。多摩村で製炭を専業とするものは極めて少なく、製炭者のうちの九九パーセントが農業を主業としていた。「典型的な副業生産」であり、農閑期の「春冬」に主に男性が製炭に従事していた(夏季には生産がほとんどなされていない)。「農間稼ぎ」として、周辺の都市部に販売していたとのことであるが、自家消費用(採暖用・養蚕用)の性格が強かった。八王子市、町田市、稲城町、日野町、多摩村、由木村の製炭量については、表2―1―6の通りである。
表2―1―6 南多摩郡市町村別製炭量
(単位:俵。1俵は15kg)
昭和29年 昭和31年 昭和33年 昭和34年 昭和35年 昭和36年 昭和37年 昭和38年
八王子市 旧・八王子市 299
旧・恩方村 9,573
旧・浅川町 298
旧・横山村 150
旧・川口村 435
旧・由井村 198
10,953 8,034 7,622 6,013 8,504 6,876 5,901 4,197
町田市 旧・鶴川村 1,146 465
旧・忠生村 42 10
旧・堺村 280 120
1,468 595 645 501 503 390 280 186
稲城町 2,223 985 1,034 843 980 740
多摩村 426 746 669 1,070 1,305 886 140 564
由木村 500 611 120 486 896 1,090 636 224
日野町 275
15,570 10,971 10,090 8,913 12,188 10,257 6,957 5,171
福宿光一「近郊丘陵地帯の製炭―東京都下南多摩郡の場合―」『山梨大学学芸学部研究報告』第15号(昭和39年)より作成。日野町は、昭和36年のデータ以外は不明である。


図2―1―13 炭を焼く人々(昭和25年)

 また、関連する話題として、昭和二十三年三月七日付『毎日新聞』の記事を紹介しておきたい。
周囲の山林をほとんど伐りつくした南多摩郡多摩村では、割当られた薪炭の供出も義務を果たすことが出来ないと今まで村人が絶対に入ることの出来なかつた同村地内にある農林省の鳥獣実験場の林の伐採許可願を出したが、このほど不許可になった。桜ケ丘として景観を誇る多摩川をはさんでの山丘は材木薪炭の供出でらん伐、今は全く坊主山となりつつあるので憩いの家を失つた野生の鳥獣は約七町歩の四、五十年を経た赤松林や三、四十年たつたならやくぬぎの美林アパートを求めて集つているので林野局としてはその開放に応じないのだが、半面鳥獣実験場は本来の仕事は休業状態で自家用薪炭材その他で盛んに伐つているので、村民はなお執ようにこの運動を続けようといつている。