これらが画期的であったことは間違いのないことではあるが、市町村政担当者に困惑をもたらしていたのも事実である。「地方自治の本旨」が高唱され、民主化が進められたとしても、権限移管に見合うだけの財源面での保障はなされなかった。地方自治を確固としたものにするためには地方財政をしっかりとしたものにすることが必要なはずだし、また、地方財政を確固としたものにするためには地方税制をしっかりとしたものにすることが不可欠である。しかしながら、事業遂行に必要な財源を確保するための根本的改革は、シャウプ勧告までは手つかずであった。多摩村行政文書のなかに「村財政の窮状」「貧困な村財政」との言葉をみつけることができるが、学校教育、警察、消防など、やるべきことをやらなければならないことに変わりはなかった。昭和二十四年度の政府予算が「超均衡型予算」(いわゆるドッジ・ライン)であったため、市町村財政は苦境に追いつめられた。過度のインフレを抑えこむという目的を達成するためではあったが、この措置は従前の例にないもので、厳しさを感じさせた。
「日本における恒久的な租税制度を立案することを主要な目的」として、シャウプ使節団が来日したのは、まさにこのときであった。シャウプ使節団は、GHQ最高司令官の要請により編成されたもので、昭和二十四年(一九四九)九月十五日に発表された『日本税制報告書』(いわゆる第一次シャウプ勧告)は、税制と財政の面から地方自治の状況を再検討した「勧告書」であった。この勧告は、地方自治体の仕事を賄うに十分な独立財源(中央政府の干渉を受けない平衡交付金を含めたもの)を確保することを主張していた。基礎的自治体として位置づけられた市町村は、質量ともに増加した行政事務を遂行する「能力」と「体力」が必要となっていた。だから、附加税中心主義の市町村税のありかた(それまでの市町村税は都道府県税の附加税として徴収されていた)に疑問が呈され、附加税廃止と市町村における独立の税目を設けるべきことが勧告されたのである。「行政事務の再配分(地方分権)」も必要なことと指摘された。地方自治のための仕事は、市町村に第一の、都道府県に第二の優先権を与え、中央政府は地方ができない仕事だけを引き受けるべきだ、と提言された。
昭和二十五年度の途中から、市町村の税制は独立税(普通税)中心にあらためられた。シャウプ勧告は「勧告の一部のみを取入れることに伴う結果については責任を負わない」と明記していたのだが、実際には部分的にしか採用されなかった。地方分権は実現されず、地方自治体は従前のように中央政府の統制の下におかれた。独立税的な性格を持つはずであった平衡交付金制度も、結局は地方自治体を中央政府が政策的に誘導するための手段になってしまった。
ここで、一般会計歳入・歳出決算の表(資四―統計資料)から、多摩村の歳入がどのように変化したかをみてみよう。従前の制度で編成された昭和二十四年度と、新制度の二十五年度とでは様相が大きく異なっている。二十四年度の決算時における歳入合計額は八六三万七九九七円であり、そのうちの村税収入は五五八万〇三五二円、国庫支出金が一五二万〇三六〇円、東京都支出金が三八万二七四八円であった。村税収入のうち、都税附加税分が一六四万五七九〇円、独立税分が一六〇万一五六二円、地方配布税分が二三三万三〇〇〇円であった。村税に占める独立税の割合は二八・七パーセント、都税附加税の割合は二九・五パーセント、地方配布税分の割合は四一・八パーセントであった。歳入合計額のなかの独立税の割合は一八・五パーセント、都税附加税の割合は一九・一パーセントであった。これが二十五年度になると、過年度分や滞納分については附加税の徴収もされているが、現年度分には附加税の科目はなくなっている。シャウプ税制のもとで市町村税の枢要さがいわれていたこともあり、昭和二十五年度以降は普通税の徴収が基本に据えられた。住民税(多摩村では村民税)、固定資産税(地租附加税を改めた科目)が市町村税の中核を担うようになったのである。二十五年度の決算時の歳入合計額は一四一九万六八九三円であり、村税収入は七五一万四一一二円、地方財政平衡交付金は二九八万四〇〇〇円、国庫支出金は二一二万三二五五円、東京都支出金は五九万六九七九円であった。普通税の収入額は七〇一万一八一九円で、歳入合計額に占める割合は四九・四パーセントとなっている。普通税分に旧法による税の分の五〇万二二九三円を加えたものが村税収入であるが、この「独自財源」の歳入合計額に占める割合は五二・九パーセントにもなる。地方財政平衡交付金を含めると七三・九パーセントにのぼる。昭和二十五年度は「三割自治」ならぬ「五割自治」を達成していたのである。
しかし、この税制改革は困難をもたらすものでもあった。市町村の財政力の強化をめざすことは良いとしても、市町村独自の財源の確保は至難の技であった。不足分を補うための村債も発行されていく。多摩村の各年度の事務報告書や決算書から、昭和二十五年度から三十四年度までの普通税の徴収状況を表2―2―11にまとめてみた。この表は現年度分の数値であり、過年度分や滞納分は含まれていない。収入額を調定額で除したものを現年度徴収率とすると、二十五年度は九一・九パーセント、二十六年度は八七・五パーセントであったものが、二十七年度に五五・一パーセント、二十八年度に四三・三パーセントと徴収率が低下しているのがわかる。実際には、財政の自立は達成できなかった。村の事業を縮小することもできなかったから、「上部機関(国や東京都)」の補助や「借金(村債)」がなければ、村政運営は不可能であった。
昭和25年 | 昭和26年 | 昭和27年 | 昭和28年 | 昭和29年 | 昭和30年 | ||
村民税 | 調定額 | 3,549,180 | 3,136,888 | 2,705,223 | 3,100,000 | 2,850,450 | 2,674,992 |
収入額 | 3,159,797 | 2,813,594 | 892,820 | 1,280,000 | 1,753,180 | 1,683,281 | |
固定資産税 | 調定額 | 3,528,890 | 4,978,680 | 3,898,770 | 5,305,000 | 6,530,840 | 7,173,370 |
収入額 | 3,320,165 | 4,287,355 | 2,435,430 | 2,016,000 | 3,912,486 | 4,823,520 | |
自転車税 | 調定額 | 203,200 | 216,800 | 240,400 | 268,000 | ||
収入額 | 193,000 | 199,500 | 219,000 | 228,000 | |||
荷車税 | 調定額 | 198,800 | 195,400 | 191,400 | 181,000 | ||
収入額 | 178,960 | 188,800 | 178,500 | 155,000 | |||
自転車荷車税 | 調定額 | 484,400 | 531,400 | ||||
収入額 | 440,450 | 479,250 | |||||
電気ガス税 | 調定額 | 281,649 | 282,704 | 187,189 | 320,400 | 346,534 | 355,461 |
収入額 | 281,649 | 227,331 | 187,189 | 279,978 | 346,534 | 355,461 | |
木材引取税 | 調定額 | 2,318 | 0 | 9,000 | 9,000 | ||
収入額 | 1,468 | 0 | 750 | 5,250 | |||
広告税 | 調定額 | 3,050 | 5,064 | ||||
収入額 | 1,850 | 4,900 | |||||
たばこ消費税 | 調定額 | 895,140 | 760,650 | ||||
収入額 | 895,140 | 760,650 | |||||
犬税 | 調定額 | 49,800 | 0 | 27,600 | 28,700 | 25,600 | 22,900 |
収入額 | 48,600 | 0 | 25,200 | 26,000 | 21,800 | 19,400 | |
普通税計 | 調定額 | 7,816,887 | 8,815,536 | 7,141,816 | 9,203,100 | 11,141,964 | 11,527,773 |
収入額 | 7,185,489 | 7,721,480 | 3,938,139 | 3,984,978 | 7,370,340 | 8,126,812 | |
収入額/調定額(%) | 91.9 | 87.5 | 55.1 | 43.3 | 66.1 | 70.5 |
昭和31年 | 昭和32年 | 昭和33年 | 昭和34年 | ||
村民税 | 調定額 | 2,871,830 | 3,248,060 | 3,112,000 | 3,892,930 |
収入額 | 1,465,440 | 2,039,310 | 1,766,120 | 2,167,760 | |
固定資産税 | 調定額 | 7,400,930 | 7,659,390 | 8,408,250 | 8,939,320 |
収入額 | 4,694,583 | 5,034,637 | 5,936,430 | 6,152,437 | |
自転車荷車税 | 調定額 | 503,000 | 508,800 | ||
収入額 | 405,610 | 429,460 | |||
軽自動車税 | 調定額 | 165,000 | 288,365 | ||
収入額 | 144,870 | 250,465 | |||
電気ガス税 | 調定額 | 470,252 | 571,333 | 638,862 | 887,027 |
収入額 | 470,252 | 571,333 | 638,862 | 887,027 | |
木材引取税 | 調定額 | 10,000 | 8,000 | 4,800 | 3,600 |
収入額 | 5,700 | 4,440 | 3,540 | 1,380 | |
たばこ消費税 | 調定額 | 986,550 | 1,013,120 | 1,504,090 | 1,901,090 |
収入額 | 986,550 | 1,013,120 | 1,504,090 | 1,901,090 | |
犬税 | 調定額 | 23,900 | 23,600 | 24,700 | |
収入額 | 19,800 | 21,100 | 23,000 | ||
普通税計 | 調定額 | 12,266,462 | 13,032,303 | 13,857,702 | 15,912,332 |
収入額 | 8,047,935 | 9,113,400 | 10,018,000 | 11,360,159 | |
収入額/調定額(%) | 65.6 | 69.9 | 73.3 | 71.4 |
昭和二十六年十一月二十五日付の『毎日新聞』は、多摩村を含む一四の町村が地方競馬開催を協議していることを伝えている。また、昭和三十年十一月十八日の村議会には競輪のための一部事務組合を設置することが提案されている。この案は全員の賛成を得て、即日可決された(資四―185)。実際には多摩村は公営ギャンブルを開催する立場にはならなかったが、財源を確保し、財政状況を改善しようという意図がこれらにはあった。