都庁内の議論と調整

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都庁内で八月十一日に開かれた定例会議では、先にふれた「多摩ニュータウン計画の経過と問題点」をもとに、農林施策にかぎらず様々な問題点について議論された(資四―298)。マスタープランの概要はこのときに首都整備局から関係各局に報告された。これに対して各局から提出された意見をいくつかあげておくと、「最終段階まで、都は膨大な財政負担にたえられるか」(住宅局)、「財政的にやりきれぬから、都は行政庁としての監督に止まり、施行は公社等に委ねてはどうか」(財務局)、「都の姿勢に応じて、関連事業をやるかやらぬかを決定したい」(建設局)「一、組織が不明確で、相談の持って行き場所がない。二、マスタープラン作成の過程で相談がほしかった。確定した後では意味がない。三、地元との連絡が悪いので、地元無視として憤慨している。四、実施によって市町村財政は完全に破壊されるので救済が必要である。五、市町は財政は都に預けると言っている」(総務局)、「ニュータウン計画は点の問題であり、三多摩開発全体としての面の問題ではない。残される二〇〇万の現住民をどうするのかの的確な計画をどうするか」(企画調整局)など、都市計画担当に対して厳しい声があがっていた。まさに議論百出であり、マスタープランの策定過程において都庁内で充分な検討や調整が行われていなかったことがみてとれる。
 このときに議論された問題点は、八月十四日の第五三回首脳部会議に報告され、同会議は、事業決定の告示の促進、用地買収の促進、連絡協議会による事業の連絡調整の三点を指示した(資四―301)。九月二十一日には、東京都が建設省計画局、道路局、河川局に事業予算の説明を行った(『多摩ニュータウン構想』)。多摩市役所には、「多摩新都市建設に関する要綱」(資四―299)という文書が保存されている。この文書は、町役場が当時、施行者側から説明を受けたときに受け取ったものと思われる。これによると、事業予算は、宅地造成費と関連公益事業に一五五九億円、住宅建設と道路・河川の整備に一四三四億円、民間鉄道事業に一九三億円、総計三一八七億円が見込まれていた。

図2―5―5 都庁内の定例会議の記録

 また農林施策の話に戻ることにしよう。この年の一月、東京都の副知事、関係局長、新住事業の施行予定者及び地元市町長で構成する南多摩新都市開発事業連絡協議会が設置されていた。九月一日に第一回の協議会が開かれ、「用地買収を円滑に進めるため」、「用地買収に関する基準を統一」することが決定した。十一月十六日には同協議会の施行者部会が開かれ、「用地買収基準、補償基準、及び生活再建措置基準」が定められた。翌十二月、東京都は「関東農政局に対して、これらの基準に基づいて具体的な農業者対策を実施する旨申し入れ了承され」た(『多摩ニュータウン開発の歩み』)。これを受けて、十二月二十四日に農林大臣の開発に同意する回答を得て、十二月二十八日、都市計画の決定公告がなされた(資四―302)。このとき決定した都市計画は、さきにのべたように、マスタープラン第六次案にほぼ則ったものであった。