日本住宅公団の生活再建対策

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多摩ニュータウン開発では、用地買収の段階から、新住法に定める生活再建措置として、土地を手放して営農継続ができなくなる農家に対して、団地内商店への出店を優先的にあっせんし、農業から商業への転業を誘導する道が用意されていた。多摩ニュータウン開発では、一中学校区で一つの住区が形成されているが、当初の構想では、住区内の歩行圏内で日常生活がほぼ充足できるように、一住区に三か所の住区サービス施設を設け、そこに購買施設、診療所、集会所、派出所、郵便局等を配置することになっていた。日本住宅公団の生活再建対策の中心は、農家からの転業者にその住区サービス施設で商店経営をするように勧めることであった。
 五章一節で少しふれたように多摩ニュータウン開発の都市計画決定が遅れたのは、農林施策をめぐる協議が難航したからであり、農林大臣が最終的に同意したのは、昭和四十年十一月に、南多摩新都市開発事業連絡協議会の施行者部会において用地買収基準、補償基準、生活再建措置基準が定められたからであった。そこで定められた「南多摩新住宅市街地開発事業に伴う土地等の提供者の生活再建措置」(資四―354)という要綱には、その第五条に土地提供者のなかの「営農継続希望者で代替農地を希望する者に対して、個々に実情を調査のうえ客観的にみて真にやむをえないと認められるときは、農地の取得についてできる限りあっせんに努める」との規定がある。しかし、じっさいには五章二節でみたように代替農地を強く希望した農家にも、あっせんは実施されず、商業への転業に導かれた。
 生活再建対策にあたって、公団は「ニュータウンの建設は、従来の農村の秩序なり規範なりの崩壊することを意味する」ことを理解しており、農家には「経済的な不安感よりは〝自分たちのまち〟がどうなるのかといった心理的な不安感の方が強かった」こともつかんでいた。そこで、次のような条件をみたす開発をするのだということを生活再建対策対象者にPRすることに力を入れた。
a 将来とも、ニュータウンの住民として生活することが可能であること。
b 少なくとも、この地域における平均的水準の生活を営むことができること。
c ニュータウンの建設に参加することができること。
d 地域の発展による利益を享受することができること。

(日本住宅公団南多摩開発局『多摩ニュータウン生活再建対策調査研究』一九七一年)

 日本住宅公団では昭和四十三年三月から、多摩ニュータウン開発に関係する二〇か所の地域で生活再建に関する懇談会を開催し、六月からは全対象世帯を戸別訪問して、意向を聴取した。その結果は表2―6―1・2の通りであった。この時点でもまだ農業継続希望と回答する農家が八二戸あり、営業希望者のなかでは団地内賃貸店舗に出店よりも業務用地で営業することを望む者が多かった。公団ではこの調査結果をふまえて、昭和四十四年五月二十九日に、転業指導講習会の申し込み受付を開始すると通知した。この講習会に申し込まない者は、業務用地の優先分譲、又は賃貸店舗の優先賃貸等の措置を受ける希望がないものとみなされた(資四―356)。四八〇人のうち公団の優先措置を希望したものは一〇二人で、そのうち多摩市民は七八人であった(日本住宅公団南多摩開発局「生活再建の現状」、多摩市行政資料)。
表2―6―1 生活再建対象者の希望
(昭和43年8月)
商業等の営業希望世帯 198戸
就職希望世帯 80戸
農業継続希望世帯 82戸
措置の必要があるが未定の世帯 5戸
農業以外の安定した職業についているため必要がない世帯 115戸
合計(多摩・八王子・町田) 480戸
日本住宅公団「生活再建対象者の希望別調査について」(多摩市行政資料)より作成。
注)稲城市分と多摩市・第4住区分を除く。

表2―6―2 営業希望者の希望業種分類表
大分類 形態 業務用地 賃貸店舗 いずれか その他 大分類計
業種名
食料品 青果物店 5 4 9 39
菓子店 3 2 1 6
酒屋 5 5
茶屋 4 1 5
米屋 1 2 1 4
食料品店 4 4
精肉店 2 1 1 4
その他 5 1 6
飲食店 飲食店 1 5 3 9 17
喫茶店 2 1 3
その他 2 2 1 5
文化品 花、植木屋 11 2 13 38
文房具店 3 3 4 10
書店 3 1 4
玩具店 3 3
薬局 1 2 3
その他 1 1 3 5
住用品 家庭電気器具店 3 1 1 5 9
荒物雑貨商 2 2 4
サービス業 クリーニング 1 1 4
美容院 1 2 3
その他 水道工事店 2 1 1 4 24
ガソリンスタンド 3 3
自動車修理業 2 1 3
請負業 3 3
幼稚園 3 3
その他 5 2 1 8
未定 28 21 29 78 78
合計 78 75 49 7 209 209
営業希望実数 73 70 48 7 198 198
日本住宅公団南多摩開発局「生活再建対象者の希望別調査について」(多摩市行政資料)より作成。
注)1 昭和43年8月9日現在のまとめである。
  2 「その他」はニュータウン地区外で営業することを希望しているものである。
  3 合計が実数より多いのは、2業種以上を希望したものを合算したためである。