現在の農業

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営農環境の悪化した今でも都市農業に意欲的に取り組む農家がいる。数は少ないけれども、さまざまな取り組みを成功させてきた。新聞も多摩市の農家の試みを好意的に報じている。以下、昭和五十年代後半以降の新聞記事で多摩市の農業に関するものの一部を要約・紹介する。
[椎茸の原木を市民に販売]都市農業のPRのため、多摩市の椎茸生産組合が椎茸原木を売り出した。昭和五十七年二月二十日に販売を開始。二十二日午前中には完売。あっという間に五〇セットが売り切れた。買い手のうちの一〇人がニュータウン住民だった。ニュータウンの団地に住む購入者はベランダや風呂場で栽培しているという(『朝日新聞』昭和五十七年二月二十三日付)。
[多摩市農協園芸部会による朝顔市]昭和五十八年七月九日と十日に、第一回の「ふるさと朝顔市」を開催。農地の大部分が宅地となった多摩市にはこれといった名産がない(市域の六割がニュータウン区域)。「残された区域」で何か栽培して、多摩市の名物をつくろうということになった。そこで、朝顔づくりを思いついた。入谷の朝顔市を見学したり、江戸川区の農家を手本に栽培法を研究した。第一回の朝顔市は朝顔の販売だけでなく、納涼踊りもやるし、露店もある。これを「ふるさと多摩夏まつり」として、毎夏の恒例行事にすることにした(『朝日新聞』昭和五十八年七月七日付)。
[市価よりも二~三割安の水曜市の開催]多摩市内の四〇戸の農家が加盟する農産物即売推進協議会(新倉房吉会長)が、毎週「水曜市」を開くことを決定。昭和六十年八月七日から十二月まで、午後三時に開店する(『朝日新聞』昭和六十年八月八日付)。
[東京南農協の誕生]稲城、多摩、七生(日野市)、日野の四つの農協が合併し、東京南農協が誕生することが決まった。貯金高は約五五〇億円で、都内五八農協で八番目の規模になる。「これまで多摩市農協は専任の営農指導担当職員がいなかったが、合併は組合員に対する指導態勢の充実にもつながるという」(『朝日新聞』昭和六十三年十一月二十日付)。
[ブルーベリーの生産]JA東京南の多摩地区青壮年部のメンバー(連光寺の萩原重治氏を含めた五人)が、ブルーベリーの生産に取り組んでいる。ブルーベリーは農薬を必要とせず、栽培も比較的手間がかからない。平成三年頃に母樹を植え、平成五年に収穫にこぎつけた。消費者にアピールする特産品にすることをめざしている(『読売新聞』平成七年九月六日付)。
[多摩市産の酒米で日本酒をつくる]多摩市産の酒米が、「原峰のいずみ」という地酒になった。貝取の㟁俊昭氏が中心となって、商品化を成功させた。東京産の酒米で初めて本格的に造った酒で、売れ行きも好調。イモリキュールの商品化も研究している(『朝日新聞』平成八年十一月十三日付)。
[炭焼き小屋の復活]㟁俊昭氏の取り組み。一回に一週間かけて、約二トンの枝を焼き、木炭をつくっている。これは街路樹などを剪定(せんてい)した後の枝の有効活用でもある(『朝日新聞』平成九年三月八日付)。

 現在でも熱心に努力が重ねられている。消費者に喜ばれる特産品をつくるため、生産者の顔が見える食料づくりのため、研究が進められている。多摩市産の米や麦を原材料とした味噌を商品化することが、目下の課題であるという。
 平成九年(一九九七)の農業粗生産額は八七〇〇万円、生産農業所得は四二〇〇万円である。多摩市の農業は産業としての規模は小さいが、個々の農業者は意欲的な取り組みをみせている。栽培されている農産物も、表2―6―8が示すように、それぞれの量は少ないが実に多彩である。生産額の多い順に作物を並べるならば、ほうれんそう、こまつな、ばれいしょ(じゃがいも)、トマト、ねぎの順となる(平成九年)。平成四年(一九九二)六月には、多摩市都市農業推進計画策定委員会が『都市農業推進計画』をまとめている。「都市と共存する農のある快適なまちづくり」を目標とし、地域住民との交流を深めつつ、消費者ニーズに対応した農産物の生産を推進していくという。
表2―6―8 多摩市の農産物の収穫量
(単位:t)
平成元年 2年 3年 4年 5年 6年 7年 8年 9年 10年
水稲 15 15 15 15 14 16 11 11 12 7
陸稲 4 1 3 1 2 2 2 1 2 2
小麦 3 3 2 2 1 1 1 1 1 0
かんしょ 37 37 35 36 29 37 36 41 40 36
大豆 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0
小豆 0 0 0 0 0 0 0
そば x x 0
飼料作物 6 2 0
らっかせい 0 0 0 0
だいこん 44 24 24 12 13 12 13 13 13
かぶ 18 17 15 15 15 14 14 14 15
にんじん 39 13 11 9 9 8 9 9 9
ごぼう 15 8 7 8 7 7 7 7 6
さといも 28 17 26 17 26 24 23 21 21
やまのいも 2 2 2 2 1 1 1 1 2
ばれいしょ 128 128 116 117 108 96 98 93 87
はくさい 98 55 48 48 54 49 56 56 49
キャベツ 87 48 45 49 49 65 69 69 67
ほうれんそう 47 36 36 32 35 38 38 38 38
ねぎ 45 28 26 29 26 31 35 36 32
たまねぎ 2 1 1 1 1 2 2 2 2
なす 30 19 21 19 18 20 19 19 12
トマト 67 42 40 42 38 37 35 34 27
きゅうり 49 37 31 30 29 30 29 27 24
かぼちゃ 9 1 1 1 1 1 1 1 1
ピーマン 2 3 3 3 2 3 3 3 1
さやえんどう 3 2 2 3 3 2 1 1 1
えだまめ 5 5 4 4 3 3 3 3 3
さやいんげん 8 8 7 7 7 7 7 6 3
未成熟とうもろこし 21 13 15 15 14 15 15 15 15
いちご 12 4 4 4 4 4 4 4 4
すいか 1 0 0 1 1 1 1 1 1
メロン 1 0 0 0 0 0 0 0 0
レタス 1 1 1 1 1 1 1 1 0
セルリー
カリフラワー 5 2 1 1 1 1 1 1 0
ブロッコリー 9 6 4 5 5 4 4 4 4
こまつな 27 27 27 24 23 24 23 23 24
しゅんぎく 3 2 1 1 1 1 1 1 1
わけぎ
にら 1 0 0 0 0 0 0 0
しそ
しょうが
みつば
うど
関東農政局南多摩統計情報出張所『南多摩の農業統計』より作成。
注)表中で使用した記号は次のとおりである。「-」は事実のないもの。「…」は事実不詳または調査を欠くもの。「0」は単位に満たないもの。「x」は秘密保護上、統計数値を公表しないもの。

 地域に根づいた都市農業を育成するための施策をどのように実行していくのか、都市化による周辺環境の悪化のなかで農家はいかに行動すべきなのか。将来の多摩市の住環境を良好に保つためにも、これ以上の農地の減少は避けなければならない。緑地を減らさないことを基調とした実効ある政策を立案し、具体化していくことが大事である。これは安全で新鮮な食料を身近な場所で確保することにもつながってくる。これからの多摩市は、住宅機能に特化したベッドタウンではなく、生産機能を持つ〝むら〟と〝まち〟の双方の良さを具備するべきである。農業を維持・発展させていくことはそのための第一歩となろう。農家の存在意義を高める農業経営戦略と農業を活性化する効果的な助成策を果断に実行することが必要である。