「未来図」の鍵は住民参加

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『朝日新聞』は立川支局の総力をあげて平成十年三月二十四日から断続的に八回「街づくりの誤算―多摩ニュータウンから」を特集し、多摩ニュータウンの過去と現状をとりあげ、これからの街づくりの道をとらえなおそうとした。「街づくりの誤算」とは少々センセーショナルな表現ではあるが、同紙の言い分を文字れば、「おしゃれな街」の「ほころび」を点検し、その原因を探ろうとするのが、この特集の狙いであった。内容の一部をあげると、平成三年バブル崩壊で地価が下がりはじめても、ここの基準価格は毎年度五パーセントずつ上がっていく価格決定方法に、住民の不信感がつのっている記事、行政の読みを上回った団地の老朽化の特集、空き店舗解消への行政の重い腰、つきあいを阻む坂や階段をあつかったバリア問題等々といった行政批判のことがらであった。これらの記事を読んでいくと、街づくりに必要なのは、住民が自分自身の眼で、街の問題を拾い上げていく積極的な姿勢と実行力を持つことである。事実、住民参加の街づくりの提案の声も「街づくりの誤算7」(『朝日新聞』平成十年四月四日付)で紹介している。そこには、法律でがんじからめにされてきた街づくりではなく、住民の声に耳を傾けて先手を打ってほしいという行政側にたいする要望がでていた。
 ところで、多摩市は平成九年七月、市民一五〇〇人を対象に市政世論調査を行った。調査員の個別面接による回収の数と率は一二一四人の八〇・九パーセントである。この年で二〇回目というこの調査で明らかになったのは、定住意向調査で「ずっと住みたい」が五二・三パーセント、「当分は住みたい」が三八・六パーセントで、両方を合わせると九〇・九パーセントにのぼっていた(多摩市『第二十回多摩市政世論調査報告書』)。この数字は、前年の八二・五パーセントをはるかに上回り、昭和六十年(一九八五)以来、連続して肯定的で高い評価をえたことになる。また、「住みよい」「どちらかといえば住みよい」という回答は合わせて九四・三パーセントと高い評価を受けていた。調査対象者のこの高い定住志向について市の秘書広報課は、市の住民一人当たりの公園面積が一二・一〇平方メートルと近隣ではトップで、緑の多いことが評価されているのではないかと見ていた(『読売新聞』平成九年十二月十八日付)。
 多摩ニュータウンの市民を対象とする調査は、この間、大妻女子大学社会情報学部が平成七年(一九九五)の中高層集合住宅の住民意識調査から平成十年の首都圏の多摩、港北(神奈川)、千葉の三大ニュータウンの比較にいたるまで「街づくり」もふくめ多様な調査を試みてきたし、中央大学総合政策学部が平成八年に多摩ニュータウンの住民意識調査を行ってきている。いずれも参考データとして意味があるが、そのうち、大妻女子大の平成七年の調査を見ると回答件数は二三五(回収率四三・四パーセント)と少ないが、多摩ニュータウンのイメージは「緑が多い」が七五・七パーセント、「住みやすい」が四二・六パーセント、「便利な」が三九・六パーセントと、街のイメージを肯定的にとらえていた(『読売新聞』平成七年六月二十二日付)。この郵送によるアンケート調査は、複数回答のせいか、街のイメージを「きたない」と形容する回答も五七・四パーセントあったが、街の長所を伸ばす施策を要望する声が強かった。
 同じ大妻女子大の調査で「望ましいイメージ実現への対策」という一九項目の施策の要・不要の問いでは、「ぜひ必要」の答えは「自然環境の保全」が七〇・二パーセント、「福祉施設・対策」が六一・三パーセント、「駅前駐車・駐輪場の充実」が六〇・四パーセントと上位を占めていた。平成九年の多摩市の調査では、市政への要望として一位が「高齢者福祉対策」、次いで「災害に強い」、三位が「ごみの減量化・資源化」という項目の順位になっていた(『朝日新聞』平成十年三月二十三日付)。いずれの調査でも、福祉対策への要望は強い。
 平成十一年一月の現在、多摩市の「住民基本台帳人口」は一四万二七九二人となっている。そのうち六五才以上の数は九・九パーセント、五五歳以上の人数で計算しなおすと、全人口の二二・九パーセントということになる。
 いま、この数字を「基本台帳」の男女別・年齢別人口のグラフ化したものとつき合わせてみると、そう遠くない将来、多摩市は確実に高齢化社会に移行していく。しかも、多摩市の総人口は、平成十二年から平成十九年まで漸増するという推計もでている。その漸増傾向は、既存区域では平成十一年、ニュータウン区域では平成十三年まで続き、平成十九年には総人口一四万九三七六人となると予測されている。しかも、六五歳以上の高年齢者層の増加とともに、生産年齢人口(一五―六四歳)も増える傾向にある(企画部企画課『多摩市将来人口推計(平成十年度)』)。
 このようにみてくると、「緑の豊かな静かなニュータウン」(大妻女子大調査)、「生き生き暮らせるまちづくり」(中央大調査)のイメージを活かすうえでも、「若者に魅力あるまちづくり」というテーマがこれからの一つの大きな鍵になってこよう。事実、さきほどの多摩市の市政世論調査をみても、「若者に魅力あるまちづくり」に必要なのは、市内での仕事場確保に向けての「企業の立地促進」が四〇・四パーセント、「魅力的な商店街」が三五・五パーセントとなっていた。このうち、「企業の立地促進」を要望する声は、男女とも四〇代・五〇代に強く、五〇パーセントを上回る勢いである。この職住接近へのアクセスの要望は、若い世代にとってみれば、「若い世帯に魅力あるまちづくり」に現われている「公園などの環境整備」、「治安の徹底」の声となっている。「環境整備」への世論は二〇代・三〇代の男女で四四・三パーセントから四五・九パーセントと、いずれもトップであった。企業立地と環境整備は、魅力あるまちづくりの車の両輪である。
 この数年来、新聞の報じるところによると、多摩市の内部で、ともすれば個人の殼に閉じ籠もりがちな高齢者もふくめ、さまざまなボランティア活動、サークルの動き、魅力的な商店街おこしが活発なようである。多摩市も、「多摩市若者に魅力あるまちづくり市民懇談会」(平成十一年二月)を組織したように、年齢を超えた市民活動との交流を深め、世論を基調にすえた市政をより強化していかなければならなくなっている。