発刊にあたって

 多摩市制十五周年を機会に、私たちの住む「郷土多摩」を記録に留めるため、市史編さん事業を実施することにいたしました。私たちの住む多摩は、万葉集以来多くの歌に「多摩の横山」として詠まれ、親しまれた場所です。この自然豊かな郷土も今では新しい街として、これまでにない大きな変貌(へんぼう)を遂げながら、たくさんの人々の暮らす都市へと変化してきました。
 これまでの発掘調査の結果、市内からは縄文人が生活していた跡を示す遺跡が数多く発見され、「多摩」は縄文のころの人々にとっても豊かな自然に恵まれた、きっと暮らしやすい所だったに違いありません。奈良・平安時代には対岸の国府を臨む重要な地点として、鎌倉時代には現在も市内に名前の残る鎌倉街道が整備され、鎌倉幕府の重要な拠点であったこと等が数々の資料からも窺(うかが)い知ることができます。また、現代になると多摩ニュータウン開発計画がこの多摩市を中心に進められ、新しい街づくりが進められました。
 こうした多摩市の歴史を、市民の一人ひとりが知ることにより、「ふるさと多摩」を身近に感じていただき、更にこれからこの街を「ふるさと」として育っていく子どもたちが、誇りに思えるような「多摩」を創っていくために、これまでの歴史的経過を記録として明らかにし、残していくことが大切と考えました。このことは、歴史を正しく認識することにつながり、人権を尊重する街づくりにも寄与するものと考えております。
 このため、昭和六十一年より諮問機関として多摩市史編さん委員会を設け、活発なご審議をいただきました。そして、市史編さん事業を多摩市における文化事業の一環としてとらえ、『多摩市史』の刊行をしていくようにとの答申をいただきました。
 市では専門知識を有する十三名の方々に多摩市史編集委員をお願いし、編集作業にはいりました。編集委員をはじめとする諸関係者の真摯(しんし)な調査と研究の成果として、このたび『多摩市史 民俗編』を刊行できますことは誠に喜びにたえません。
 長い歴史のなかで受け継がれてきた生業・衣食住・信仰・年中行事などの暮らしのなかの風俗や習慣については、近年の急激な都市化の波や生活様式の変化により、既に失われているものも少なくありません。しかしながら、多くの市民の皆さまのご協力により、聞き取り調査を主体に民俗としてまとめ記録することができましたことは、大変有意義なことであります。
 終わりに本書の発刊にあたり、多摩市議会をはじめ、関係各行政委員会、資料提供等ご協力を賜った市民各位のご尽力と、調査執筆にあたった先生方に厚くお礼を申し上げまして、発刊にあたってのご挨拶と感謝のことばとさせていただきます。
 平成九年三月
多摩市長 臼井千秋