民俗の特質

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民俗は、はじめは民間伝承と呼ばれることが多かった。民俗の語が一般に定着した現在でも、民俗の特質は、民間伝承として説明した方がわかりやすい。
 民間伝承とは、ある限られた人々の特異な行動・観念とか一回起的な大小の事件ではなく、誰によってでもごく普通に繰り返されている営みである。ごく卑近な例をいくつか挙げれば、正月に雑煮を食べることも、その雑煮に何を入れるかも、また雑煮を食べて何かあらたまった気持になることも、民間伝承である。彼岸や盆に墓参りをするのも正月に宮参りをするのも、同じく民間伝承である。結婚式や葬式は、当事者にとっては一世一代のことではあるが、当事者が属する社会にとってはしばしば行われていることで、やはり民間伝承である。例を挙げればきりがないが、このように地域社会の中で誰でもがごく普通に繰り返し行っているのが民間伝承すなわち民俗で、行うべきときにこれをしないと、自分でも何となく落着かない気持ちになり、同時に周囲の人々からも変な目でみられかねないというわけである。
 このような民間伝承の特質は、同じことが繰り返されるという点で類型的・持続的である。地域社会の誰でもが行い、またそれに協力するという点で集団的でもある。類型性・集団性を有することでは、世にいう流行と似ているが、流行と基本的に異なるのは持続性を有していることである。たとい表面的には変わることがあろうとも、また内実も長い間にすこしずつ変わることが避けられないとしても、基本的に持続性を保持していることが民間伝承の伝承たるゆえんで、民俗の大きな特質である。