種類

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講中物を使用目的別に分類すると次の六種類になる。
まず、市域全体の様子をみておきたい。
(1)祭礼に用いるもの  幟、太鼓、神輿、灯籠、提灯、テント 等々(ただしテントは祭礼以外にも用いる)。

(2)念仏講の用具  掛け軸、香炉、蝋燭(ろうそく)立て、線香立て、花立て、灯明皿、木魚、撞木、鉦、大数珠、数取り器、講帳面 等々(数取り器とは、木の枠に念仏の回数を数える木札を嵌(は)め込んだもの)。

(3)葬式関係の用具  穴掘り半纏、穴掘り当番表、ハンダイ 等々。

(4)婚礼関係の用具  銚子・盃台・雄蝶雌蝶(おちょうめちょう)など三々九度一式、角樽(つのだる)、挟み箱、ハンダイ 等々。

(5)人寄せに必要なもの  椀(親椀・吸物椀・平椀・飯椀など)、皿(大皿・小皿・角皿・深皿など)、つぼ、徳利、片口、猪口(ちょこ)、そば猪口、湯飲み茶碗、大釜、大鍋、鍋、膳(会席膳・足つき膳)、きりだめ、座布団、火鉢 等々。これらは、祝儀・不祝儀・日待など多人数を個人宅に招く際に必要となるものである(椀と皿の呼び方は人によってやや異なる)。

(6)各種作業に必要な用具  屋根葺き用の茅の押切り、大梯子、足場用丸太、釘・釘箱 等々。

 では、一つのコウジュウでどれくらいの講中物を保有していたのであろうか。種類と数において比較的多かった貝取地区の瓜生コウジュウと落合地区の山王下コウジュウの保有状態をまとめたのが、表2-1・2-2である。
表2-1 貝取地区瓜生講中
(保管場所 仮集会所とその横の倉庫〈昭和六十二年当時〉)
品名 数量 銘・備考
二〇 木箱入り。木箱の銘「椀拾人前入大正六年一一月廿四日改
平椀 二〇            平二拾人前但蓋弐個不足
つぼ 二〇            平二拾人前但蓋四個不足
           椀二拾人前」
一〇 木箱入り。木箱の銘「椀拾人前入明治十五年午二月吉日」
二一 朱塗り。木箱入り。
内側朱色。外側緑色。
大皿 一九 木箱入り。木箱の蓋の銘「武蔵国第□□□□□
中皿             拾人前
小皿 一七            (一〇人の氏名あり、省略)
湯飲み茶碗 二一             明治拾五年八月吉祥日」
そば猪口 一三      木箱の銘  「南多摩郡
            明治拾五年午八月吉祥日
            皿拾人前」
中皿 一〇 (直径一五・〇センチ)  木箱入り。木箱の銘「明治拾五年午ノ二月吉日
中皿 (直径一三・五センチ)            皿拾人前入」
そば猪口 一一
膳(会席膳) 二〇 木箱入り。
三〇
そば猪口 一七
ハンダイ 一対 二個で一駄といい、一個のハンダイには赤飯五升分入る。子どもの七歳の祝いに赤飯を山盛りに入れて、親元に持参する。赤飯の代わりに丸めた餅でもよい。(直径四六センチ)
大鍋 (直径四五センチ)
中鍋 (直径三八センチ)
火鉢
祭礼用の旗 ブリキ箱入り。
灯籠(木製) 一三
提灯 多数 祭礼用。昭和六十二年当時も使用。
テント
釘箱
帳面 多数 かつての青年団の書類、祭礼や講行事の記録である。その一つに次のものがある。
  「御岳神社祭典帳大正拾四年九月より大正拾五年九月迄収入支出記入」
穴掘り半纏 紐付き。ブリキの箱入り。葬式のときに穴掘り人が着用。昭和三十年代まで使用。
(以上は倉庫に、以下は仮集会所に保管されている)
銘「享保十八年丑正月吉日武州多摩郡日野領貝取村内宇竜」
撞木
数珠 百万遍念仏用。
数取り器 念仏をした回数を数える用具。
銘「享和二戌五月
  浅草榧寺中哲相院講中諄誉代
  比叡山天黒谷百万編(ママ)
  願上此功徳平等施一切
  同発菩提心往生安楽国
  珠数一連大札一枚並木魚一ツ添」
○すべて木箱入り。木箱の銘表「念仏講 瓜生講」
             裏「昭和五二年」

表2-2 落合地区山王下講中
(保管場所 山王下集会所)
品名 数量 銘・備考
親椀(身) 二〇 銘「コ」
  (蓋) 二〇
汁椀(身) 二〇 朱塗り
  (蓋) 二〇
汁椀 一七 銘「コ」
汁椀(身) 一二
  (蓋) 二〇
平椀(身) 一九 銘「コ」
  (蓋) 二〇
平椀(身) 一〇
  (蓋) 一八
つぼ(身) 二一 銘「コ」
  (蓋) 二〇
つぼ(身) 一九
  (蓋) 一九
つぼ(蓋) あずき色
中皿 三八
膳(会席膳) 一六
飯台 一駄 銘「小泉良助」
角樽 二駄 一駄に銘「小泉平兵衛」
座布団 二九
挟み箱
座布団 二九
鉦用座布団と撞木も。鉦銘「武州多摩郡柚木領上落合村女中念仏講中十九人世話人藤右衛門母宝暦十庚辰年十一月吉日」座布団の銘「昭和五年一月廿一日春窓妙喜信女俗名小泉サダ五十二才」
数珠
木魚
数え札 箱型
数え札 (一枚ずつの数え札)
提灯(旧) 銘「地蔵尊」「山」
提灯(新) 三点は地蔵尊用
銘「瘡守稲荷神社御旗入昭和三十年二月初午」瘡守稲荷神社の棟札八枚あり。
穴掘り当番板
膳椀の使用例〈不祝儀の場合〉
       オヤワン……飯を盛る。
       シルワン……味噌汁を入れる。
       オヒラ………りひゅうず(がんもどき)の煮物などを入れる。オヒラの蓋をオカサという。
       サラ…………ごまあえなどを入れる。
       オツボ………こんにゃく・人参等のしらあえを入れる。

 以上のことから、かつて多摩市域においても実に多種多様な講中物が数多く保有されていたことがわかるであろう。
 このうち、昭和三十年代後半以降、結婚式は個人宅を式場として行うことがほとんどなくなったため、右の婚礼関係の用具は現在まれにしか用いられていない。葬式はまだ家で行う例が多いが、土葬から火葬に移行したため、コウジュウの人々が公平に順番で穴掘り役をつとめる必要がなくなり、穴掘り人(これはタイヤクなどと呼ばれていた)のユニホームである穴掘り半纏や、穴掘り役の順番を記した当番表は無用のものとなってしまった。また、結婚式はもちろん葬式に際しても、多くの人々を家に招き格式ばって飲食してもらうことも少なくなったし、飲食してもらう場合でも主たる料理は料理屋や寿司屋から取り寄せるようになったため、共有の膳椀類も全く使用されなくなった。ただ、ハンダイだけは、家普請や葬式等に濃い親戚から赤飯を届ける慣習が今も残っているので、時々使われているようである。また、念仏講はコウジュウによっては現在でも継続しているため、その用具は活用されている。祭礼に用いる用具も、同様に毎年使用されている。