蚕室

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春蚕の準備は田の苗代作りの始まる前に行う。四月二十五日ころから始まり、まず、養蚕の道具を川や用水堀へ運んで洗う。エビラ(箙)や菰、蚕棚(かいこだな)の竿など、蚕室(さんしつ)で使うものを全て洗った。それから、蚕室を密閉して消毒をする。新聞紙などを細く切り、障子の隙間や立て付けの悪いところなどを目張りし、ホルマリンを噴霧器で散布する。消毒は蚕の病気を防ぐためであった。蚕の中は、白子や軟化病にかかって死ぬものもある。白子は、オシャリになる病気だという。オシャリとは、蚕が白くなり棒のように固まってしまうことであった。軟化病は蚕の頭がアカルクなってしまう病気であるという。アカルクなるとは赤く透き通る状態であった。こうした病気が出るとホルマリン消毒をしたが、病気がでてからでは、あまり効果はなかった。
 蚕室は一〇畳の座敷の畳を上げ、蚕を飼うエビラを置く蚕棚を部屋に組み立てる。蚕棚は竹竿でエビラ二枚を受ける棚を一組一〇段から一二段ほどに組まれる。家により規模は異なるが、部屋の真ん中に給桑のエビラ台を置く通路を設け、両側に四組ずつの蚕棚を置いていた。この蚕棚で三眠起きるまでやとい(飼育して)、その後は外へ出して物置の軒下で条桑育(じょうそういく)を行ったのである。
 なお、春蚕の時期は気温の低い日もあるので、チョウハリをし火鉢を置いて室温をあげることも行われていた。チョウハリとは渋紙の紙帳を蚊帳のようにさげることである。火鉢の炭は欅炭(けやきずみ)が使われており、上蔟(じょうぞく)時には、練炭(れんたん)火鉢も使われた。

図3-18 エビラ


図3-19 カイコアミ(縄網)
          単位mm


図3-20 クワクレ台
クワクレ台は掃き立ての時に使う。上にエビラをのせる。エビラの上には蚕が小さいときには糸網、大きくなると縄網を使う。