二毛作の田は、麦作と平行作業で翌年の田の準備をする。麦作でも述べるが、十月中旬に稲刈りを終えた田へ排水の溝を掘って麦作を行う。その排水の溝へ翌年の田作りの基肥(もとごえ)になるクズを入れておくのであった。クズとは山林の落ち葉である。また、真土(まつち)の田は堅くなるので、クズを入れると土が柔らかくなり耕作が楽になる利点もあった。二毛作の田へ運ぶと束のまま麦作のための排水用に掘った溝へ置き、田へ戻す折りに一面に散らして耕すのであった。一ノ宮地区や関戸地区など、冬場に多摩川の堤防工事や砂利掘りで現金収入を得る家では、クズを田へ入れる人手が不足して、田を堅くしてしまうこともあった。
田へクズを入れたのは昭和三十年代ころまでであった。昭和の初期には豆や鰯(いわし)のしめかすを精麦用の二斗張りの臼でつき崩して田へ入れたこともあるが、買わねばならぬので普及するまで至らなかった。