種播きは、籾振(もみふ)りとも呼ばれ、五月五日の節供ころが目安であった。籾は種播き前に一〇日ほど水に浸す。四斗樽などに張った水へ浸して毎日水を替え、浮く籾はシイナ(不熟の籾でシナスとも呼ばれた)なので取り除く。熱心な人は塩水選も行った。真水では浮ききらぬ程度のシイナでも、塩水だと浮かせて除去することができる。種播き当日の朝、笊(ざる)に上げて水を切り、陰干しする。濡れたままでは籾がまとわりついて播きにくいので、パラパラと播きやすくなる程度の水切りである。籾を笊に入れて掴んではばらまく。播く量は一反に対して三升程であった。籾は多く播くと苗の根が軟弱になるので「あまり厚く籾を振るな」といわれていた。また卯(う)の日は種播きを嫌っていた。
苗代は代掻きの後に水を落として土を落ちつかせてあるが、種播きの当日浅く水を張る。籾を播いてから水を張ると籾が筏になる。籾どうし連なり流れ出すことを、筏になると表現したのである。水を薄く張った苗代へ播けば、籾が流れ出てしまうこともなかった。また、水を張っておけば雀に籾を喰われることも防げた。苗代に籾を播き、しばらくすると灰を薄くかける。灰は雀避けになるほか、苗取りをしやすくする働きもあったという。毎日「田まわり」をして、水加減を見る。うっかり水を干してしまうと、苗代が堅くなり苗が取りにくくなってしまうのである。
写真3-19 苗代