麦播きの準備

215 ~ 216
二毛作田は秋の彼岸に水を落とし、稲刈を終えて田の乾いたころに麦播きの準備をする。十月中旬過ぎの作業で、田を畑とするための排水用の溝を掘る。この溝は田のクロ(畔)の内側に一巡りと、その内側へ六尺おきに掘る。溝を掘るには、カマッピキ(鎌引き)から始める。まず、掘る溝の中央の位置へ縄を張り、縄に沿って古い鎌で土を切って筋を付ける作業である。次ぎに、鎌で切った筋に沿って鍬で土を起こし溝を掘り進む。端まで掘ると向きを変え、同じ筋を掘りなが戻ってくる。これを二度ほど往復して幅一尺・深さ一尺ほどのV字形の溝を掘る。畦(あぜ)の内側に巡らす溝は四角い掘り方の溝であった。この溝へクズを入れておく。クズは山の落ち葉で、山でクズを掃き、束ねて運んできて入れていた。
 溝を作るために掘り上げた土を、麦播きする畑の表土とするために細かく崩す。この作業にはフリマンガ(振馬鍬)を使う。フリマンガは横木に鉄の串を幾本か打ち止めたシロカキマンガ(代掻き馬鍬)を小型にしたものである。これを、両手で提げて左右に振り動かして、横木に植えられた鉄串で土塊を崩していく。細かく崩された土を鍬でさくり、麦を蒔くサク(畝)を作る。田の畦の内側に溝に囲まれた短冊状の畑ができる。
 麦播きの前に二毛作の田を起こすのはこの水切りの溝だけで、その溝を起こした土を崩してサクを作った。田一面の稲株は起こさぬまま麦を蒔き、麦ザクを切る時に下の田の土も鍬で起こした。田の中へ掘った溝が南北の場合は、麦蒔きのサクは東西となる。田が細長く溝が東西となった場合はサクを南北に切らず、東西になるべく近い傾斜をつけた角度にしていた。