戦前には夏から秋にかけて多摩川へ潜り鮎を捕らえた。道具は小さな二眼の水中メガネと、二メートルほどの竹竿の先に碇状の鉤(かぎ)針を掛けたヒッカキザオ(引掻き竿)である。縄張りを持つ習性の鮎が、その縄張りをぐるぐると回っているのを見つけ、この竿先の鉤針で引っかけた。鉤針は五~六寸の篠竹に取り付けられており、鮎を掛けると竿先から外れ、それに結んだ紐を手繰り寄せて取り込んだ。潜水と浮上を繰り返す体力と技量のいる漁である。鉤に掛けるので鮎に剌さるが、形の良い鮎を選んで捕るので、良い値で料理屋は引き取るのであった。