ハヤ漁にはハヤの産卵期の習性を利用したクキバと呼ばれた漁法があった。これは多摩川流域で瀬付きと呼ぶ地域があるように、ハヤが産卵のため瀬に付く習性を利用した漁法である。ハヤは四月から五月上旬が産卵期で、腹部に沿って赤い線の婚姻色が現れる。その、色変わりしたハヤをクキバヤと呼ぶ。産卵に選ぶ場所は強すぎぬ流れで、かつ、泥汚れや苔の砂利に付いていない瀬である。その環境を人工的に用意して産卵にハヤが集まるのを待ち受けるのであった。
クキバをする場所は中洲のあるところで、洲の両側の流れのうち狭い方の流れで行った。そこへ、両岸から下流中央に向けて斜めに砂利で土手を作り、さらに流れを狭くする。土手といっても砂利をジョレンで上げて川面に出る程度のものである。両岸から張り出して中央で一メートルほど口を開け、流れが速くなるようにしておく。その口のすぐ下流に、産卵に好むように細かい玉砂利を集め、きれいに洗って撒いておく。また、ときどき瀬を掻き混ぜて水垢を洗い流し、砂利をきれいにしておいた。するとそこへ川を上ってきたハヤが群がりだし、瀬の色が変わるほどであった。その群に逃げられぬよう叩き付けるように素早く投網(とあみ)を打ち、一網打尽にするのである。打った投網が持ち上げきらぬほどで、一打ちでバケツが一杯になったものである。クキバは個人で行う漁で、朝夕二回投網を打ちに出かけていた。漁獲のハヤはお得意へ売りにいくこともあったが、殆どは家の喰い料であった。卵を腹一杯にはらんだハヤは骨が柔らかく、醤油で煮詰めるととてもうまいものであった。
この他、多摩川を泳いでハヤをモリで突いて捕ったりもした。モリの先は四本ほどに分かれ、二~三メートルの柄がついていた。水中メガネを掛けて潜り、ハヤの群に近づいて突いたものである。