多摩川の鰍(かじか)は冬になると石の下の隙間に潜り込み、じっとしている。その鰍を石打ちといって石を打って捕る。少し大きな石を拾い、鰍が潜んでいそうな石に思いきり勢い良くぶつける。石の下に潜む鰍は、その衝撃で気を失い浮いてくる。中にはつぶれて浮いてくる鰍もある。大人もこうした鰍取りをしたが、冬場の子どもの格好な遊びであった。小正月に多摩川の河原にセーノカミを作り、子どもたちが集まる。そうした時には鰍の石打ちが始まり、捕らえた鰍を焼いて食べたものであった。
鰍の産卵は二月ころである。数の子より少し大きな粒で、煮ると旨いものであった。鰍は石の陰に産卵し、その石の川下はきれいに砂が洗われている。そうした場所をさがして歩き、石をひっくり返すと黄色い卵が塊となっている。その卵塊を取ってきたのである。鰍はきれいな水でなければ生息できず、多摩川の汚染で戦後すぐにいなくなった。