麹作りには麹菌を必要とする。麹菌は粉末状で、麦麹用・米麹用など、麹作りの材料に応じた菌を麹菌屋から仕入れていた。米麹用は主に大阪府住吉の上田商店から、麦麹用は東京都小石川の丸譲という麹菌も扱う醤油屋から菌を仕入れていた。菌が変わると麹の作り方も微妙に変えねばならぬので、仕入れ先を変えることはなかった。大阪の麹菌屋からは年に一~二度、挨拶がてら麹の出来具合を見にきていた。
麹作りの季節は、一月から翌年の五~六月までであった。その間、麹菌をまとめて仕入れると菌が弱くなるので、麹作りが始まる十月以前に麹菌を取り寄せ、その後二か月分ほどずつ、三~四回に分けて仕入れていた。夏の間は需要がないので、麹屋は道具の手入れや準備をするほかは、休みであった。