粳米を水洗いして一晩水に浸け、翌朝ふかす。大きな桶の底に穴をあけ、ボイラーで湧かした蒸気を鉄管で通して吹き上げる。その桶に水に浸けておいた米を入れて蒸かす。麹室は四〇度ほどの室温が必要で、ある程度多くの麹を入れないと室の熱が上がらぬので、一回で蒸かす量は一二〇キログラムほどであった。蒸かした米は固まっているので粉砕し、茣蓙(ござ)の上に広げて人膚(ひとはだ)ほどに冷まして麹菌を混ぜる。そして、茣蓙の上で四角い山に盛り上げ、冷まさぬように一晩茣蓙で囲って麹菌を繁殖させる。一晩で充分麹菌は繁殖する。
翌日、麹蓋(こうじぶた)と呼ばれる浅い長方形の杉箱へ、麹菌を繁殖させた米を一升から一升五合ずつ入れ麹室へ入れる。麹室へは麹蓋を斜めに重ねて立て掛け、七~八段積み上げ、一室(ひとむろ)で一〇〇枚余りの麹蓋を積み上げた。少なくても七〇枚以上入れぬと麹室は温度を維持することはできなかった。こうした麹蓋が、千枚以上用意されていた。麹室へ麹蓋を積み上げると、その中央にある囲炉裏の火を起こし、釜から蒸気を上げさせる。麹菌による発酵の熱が上がってくると、囲炉裏の火を落とし、窓の開閉で温度を調節した。最初は四〇度ほど上げて、徐々に下げて三五~六度を維持する。それより下げてしまうと、もう温度が上がることはなく、麹が上手くできなくなる。温湿度を維持することが大切で、その調整は温度計ではなく勘であった。麹室の戸口を開けて中の蒸気が顔に当たれば、およそ適当な温湿度であるかどうか経験で分かったものである。麹菌の菌糸が充分繁殖して表面が白くなる状態を「麹の花が咲く」と表現する。室へ入れて四日できれいに麹の花が咲き、米を洗う仕事からだと五日目に麹は仕上がる。麹が出来ると、麹蓋からはたき出して塩をきる(混ぜる)。そのままだと発酵熱が出続けて腐ってしまうので、麹の一割ほどの量の塩を入れて発酵を止める。なお、米麹はある程度甘みのあるものが良い麹である。甘酒の甘みで分かるが、その味も材料の善し悪しや熱のかけ方で左右される。また、材料の具合によって熱のかけ方が違ってくるので、材料の善し悪しによって分けて仕込む必要もあった。温度は多少違うが、麦麹も豆麹も基本はほぼ同じであった。