作業場所は火を炊くので、絞るまで農家の庭で行うが、雨降りの日は釜を庭に置き納屋で絞る。醤油絞りの道具は仕込んだ樽から汲み出して運ぶ桶、仕込んだ醤油のもろみを入れる袋、醤油絞りのフネと呼ばれる箱、それに仕込んだ醤油を煮る鉄釜などであった。農家は味噌蔵で醤油を大きな樽で仕込んでいる。その味噌蔵から仕込んだ樽を運ぶのは大変なので、一斗五升入りの桶でもろみを汲み出し、肩に担いで醤油絞りのフネを置いた場所まで運ぶ。もろみを運ぶと幅二〇センチメートル・長さ六〇センチメートルほどの麻袋や木綿へ入れる。絞る箱は幅二尺五寸・長さ五尺ほどで、底に醤油が流れ出る溝と、その醤油を流し出す口がある。この中にもろみを入れた袋を四枚ずつ並べ、合わせて六〇から七〇枚の袋を積み重ねる。その上へ蓋を置き、上部に二か所取り付けた締めキリンの螺旋(らせん)ネジのハンドルを回して、じわじわと締めていく。一回絞るのに半日かかり、四石から六石の醤油を絞る。絞った醤油は直径二尺ほどの鉄釜で煮て発酵を止める。火の入れ方により甘さや塩気などの味が決まった。煮立つと少し塩を入れ、泡立つほど良いとされた。この時の加減は色を見たり味を見たり難しいものであった。一回絞ると二番を取る。それは、一回絞って袋に残った絞り滓(かす)を袋からはたきだし、ほぐして湯に溶く。農家が二番の醤油を樽に何本欲しいかで湯の量を決める。二番は塩気がないのでカビが生えぬように塩を足し、一晩冷まして翌朝に樽詰めした。