4 下肥取り

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 現在のように化学肥料を買って田畑に散布するようになる前は、山の落ち葉や下草を集め寝かして堆肥にしたものや、人間の糞尿である下肥を肥料として使った。風呂の残り湯も溜めて田畑に撒かれた。よく発酵して腐葉土化した堆肥は火山灰土で肥料分の少ない関東ローム層の土には無くてはならないものだった。赤茶けてぱさぱさした土は堆肥を混ぜ込むことで黒土になり土同士の結合度がまして団塊状に変化していった。
 戦後はこの下肥を集めに府中(現府中市)の方まで出かけていた。暗いうちから牛車に乗って、寒い冬の日に軍隊のコートに頬かむりをして府中の方まで出かけた。荷台に樽を十二本くらい積んで牛にひかせ、朝が早いのでつい居眠りをしてしまうこともあったが、牛が自分で歩いて連れていってくれたという。
 町場につくと家を回って下肥を樽に移していく。ただでもらってくるのが普通だが、野菜を積んでいってお礼としていた。町の人も汲み取りを専門にする業者に頼むとお金を支払わなければならないので、ただの汲み取りは喜ばれたようである。
 持って帰った下肥は溜(ため)にいったんあけておいて、時期になると畑などに撒いた。冬のクズ掃きで集めたクズの山に下肥をかけて発酵を早めることもした。