9 製氷

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 連光寺地区に天然氷を作る多摩氷商会という製氷会社があった。明治四年から大正十二年ころまでの間だけであるが、多摩氷の名で親しまれた。冬の十二月から二月の間の寒い時期に天然の氷を張らせ、それを倉庫の中に保管しておき、夏の暑い時期に出荷する方法である。
 場所は桜ヶ丘保養院のそばで、五間×一〇間ほどの広さで深さが三尺ほどの池を作り、その中に水を入れて製氷した。この大きさの池が三つあったという。水は川の水を利用した。寒い時分には一晩で一〇センチメートルの厚さにもなったという。
 切り出しは一尺五寸角に鋸(のこ)で切って引き上げた。保管は倉庫の中へ木屑で氷を覆いながら詰めていったが、夏になると溶けて半分くらいの量になった。
 氷の注文の多い時期は八月のお盆ころで主に府中(現府中市)の氷問屋に出した。氷の運搬は薦(こも)に包むくらいで丁寧にはしなかった。普通は手車で運んだが、多いときは馬力を頼んだ。

写真3-36 多摩氷商会半纏(前)


写真3-37 多摩氷商会半纏(後)