図4-1 衣食住と景観
茶が畑の端や屋敷の境に植えてあって、八十八夜が過ぎると葉を摘み自分の家で製茶をした。茶の木は、屋敷の回りばかりではなく、畑の回りにも植えてあることが多かった。
農家の庭は、作業場でもあるので、楽しむための植木や庭石を置くことはまれであったが、鬼門よけに柊(ひいらぎ)やクチナシ、風除けに欅(けやき)や樫(かし)、便所のそばや出入り口に南天などが植えてあった。庭木には、つつじ、シュロ、ツゲのほか、柿、桃、梅、梨など果樹もかならずといってよいほど植えてあって季節の甘味として喜ばれていた。庭木のシュロも縄になって使うこともあった。丘陵地では、竹林や雑木林のそばに屋敷があることも多く、筍(たけのこ)を掘ったり、孟宗竹(もうそうだけ)の皮でタケカワゾウリ(竹皮草履)を作ったりした。庭の隅には、四季折々の花を植え、仏壇に供えた。仏壇の櫁(しきみ)や神棚の榊も庭に植えておく家が多かった。
屋敷地に斜面がある家では、斜面を利用してアナグラ(穴倉)、ムロとよばれる横穴を掘った。これは、桑を貯蔵するための施設であったが、穴の中は、冬暖かく夏は涼しいので、野菜の貯蔵にも使われた。さつま芋を貯蔵するサツマアナは、適する場所があれば屋敷内にも作った。
井戸は屋敷内にある家が多かった。井戸水は年間を通じて温度があまり変わらず、夏は冷たく冬はあたたかな水が使えた。夏は、中にすいかを吊して冷やした。主屋の裏に外流しがある家では、夏の間は、腐敗しやすいものを外流しの上に吊しておくこともあった。