男性の上半衣の呼称は、ジュバン、ナガバンテン、コシタケノハンテン、ノラバンテンなどである。これらは、ウチオリとよばれる自家製のメクラジマの布であった。名前の示すように、腰のあたりまでの丈で、衽(おくみ)なしのツツソデであった。ナガギを着るときにも、丈が腰くらいになるように、短くはしょって着る。ナガギの裾を帯や紐(ひも)にはさんで短くすることを「はしょる」という。
ノラギを着るときには、モモヒキをはき、上半衣をモモヒキの上に出して着る。正装のとき袴をつける場合は着物は必ず袴の内側に入れるが、モモヒキのときには着物や上半衣は上に出し、その上から帯をしめた。しかし、ジュバン、ハンテンからシャツになると、今度は、シャツの裾をモモヒキの中に入れて着ることもあった。モモヒキは、膝から下は余分なゆるみはないが、腰回りは、たっぷりしているので、中にシャツを入れて着るゆるみはあった。モモヒキにも紐がついているので、シャツを中に入れて着ると、帯を用いなくてもよかった。
写真4-14 男性のノラギ(昭和28年ごろ)
モモヒキも、ウチオリのメクラジマで作った。個人の体型に合わせて作るが、仕立てがむずかしく、裁縫の上手な人に頼んだり、タビヤとよばれた専門の職人に頼む家も多かった。和裁で着物を作るには、型紙は用いないが、モモヒキには型紙が必要であった。着物を縫うことに慣れている人でも、型紙を作る部分は専門の人にやってもらったという。
図4-4 モモヒキの縫い合わせ図
モモヒキは、腰をおおうヒキマワシと足をおおう前布、それにマチがついている。前布は筒状に縫い、膝から上の部分にマチが入る。これらは左右二組あって、紐の部分でつながっている。いたみやすい膝には、はじめから裏に当て布を縫っておいた。布を裁つときに、前布とマチ、ヒキマワシとマチをそれぞれ組み合わせるので、布に無駄が出ない。モモヒキは、膝から下が体にぴったりとついているので、泥の中でも動きやすい。昭和十年代になると、ズボンをはき、膝下をゲートルで巻いてノラギにする人も出てきた。また、湿田がなくなり、作業ズボンでも十分に代用できるようになっても、体に合わせたモモヒキを好む人もみられた。
マエカケは、一幅(ひとはば)の布を一尺八寸くらいに切って、紐をつけたものである。ウチオリのメクラジマや縞(しま)の布で作った。ほかに、若い女性などは、腕の保護にテッコウをつけることもあった。これは、中指に糸をかけ、手の甲の部分をおおうもので、足袋のこはぜを縫いつけて止めた。脱穀のときには男女とも腕の保護にウデヌキをつけた。