麦飯を炊く

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日常のご飯といえば麦飯であったことは前述の通りであるが、ヒキワリやオシムギを米と混ぜて炊くのも、白米飯を炊くのも基本的には変わらない。米と麦を混ぜてよくといだものに水加減をして火にかける。釜には厚い木の蓋をのせる。火の加減は「はじめチョロチョロ中パッパ赤子泣いても蓋取るな」といい、初めは弱火で次第に強火にし、沸騰したら火を弱くして炊く。蓋が重いので噴きこぼれずに釜の中の蒸気をのがさずに炊くことができる。ヒキワリと米とを混ぜて炊くと火の通る時間が違うので、どうしてもヒキワリの方が米よりも固く口の中に当たる感じがしたが、オシムギは、精麦のときに水分を含ませて押しつぶして平たくしたので、食感が米と変わらなかったという。
 ミトオリマゼとよばれた米、麦、粟の飯を炊くときは、先に米と麦を混ぜて火にかけ、噴き上がったところで蓋をとり、粟をぱらっと加えて炊き上げた。
 飯が炊けるとしばらくそのままで蒸らし、オヒツに移す。オヒツは檜のものがもっともよいといわれた。オヒツに移すと余分な水分を木が吸ってくれるので、冷めてもべたべたしない飯になった。食事のときはオヒツを食事をする場所へ運んで茶碗に盛り付けた。
 飯を炊くのはたいていは朝と夜の二回であった。昼は朝の残りを食べる。その間、できるだけ飯の保温をするために、オヒツは藁製のオヒツ入れに入れておいた。オヒツ入れに入れておくと、昼でもぬくもりが残っている飯を食べることができた。しかし、梅雨時や夏の間は、このような方法で保温しておくと、飯が腐敗してしまうことがあった。とくに麦が多く入っている麦飯は白米飯に比べて腐敗しやすかったので、夏は釜のまま置いて、ご飯をかきまぜずに少しずつ端から盛った。このようにすれば長く持つといった。

写真4-38 オヒツ


写真4-39 オヒツ入れ


写真4-40 オヒツ入れ