炉での調理

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炉は、ユルリとかヒジロなどとよばれていた。大きさはだいたい三尺四方であって、オカマサマとよばれる自在鉤(じざいかぎ)を下げた。炉の中には、テッキや五徳(ごとく)が置いてあり、自在鉤の上には、麻生(あさお)(川崎市)の不動から受けた火難よけの穴あき銭が吊してあった。炉の自在鉤にはいつも鉄瓶がかけてあった。外出するときには、火のついているオキを火箸や十能(じゅうのう)で集め、灰をかぶせておいた。こうしておくと火種が消えないので、帰宅して灰を除き、ツケギをくべると火がおきた。一日が終わると、オキを火消し壺に入れ、灰をきれいにならした。火消し壺のオキは、消し炭になっているので、七厘や炬燵(こたつ)などに使うことができ、無駄にならなかった。自在鉤からは鉄瓶をはずして灰の上か五徳の上にのせる。夜は、オカマサマを休ませるといい、何もかけないようにした。
 炉では、鉄瓶で湯を沸かすほか、鉄鍋をかけて料理をした。鉄鍋は、弦(つる)がついているので、弦を自在鉤にかけて火の調節をした。自在鉤は、横木の穴に通して使うが、この穴が鉤の棒の二点を支えることによって高さが固定する。炉で焚いている火は一定の強さであっても、鍋と火の間隔を変えることによって火加減を調節することができる。火を強くするときには、自在鉤を伸ばして、鍋によく火が当たるようにし、火を弱くしたいときには、自在鉤を短くして鍋を火から遠ざければよい。
 炉で毎日のように作ったのが味噌汁であった。味噌汁ができあがると、前述のように鍋を高くして火から遠ざけておくが、食事まで時間があるときには、炉の中の五徳にのせておくと煮えすぎず、また冷めなくてちょうどよかった。
 炉の中のテッキは、炉の角に置くのによいように、曲がっているものもある。テッキは、炉の灰の上に置き、中央の火からオキなどの火を分けて、上に餅などをのせて焼く。蒸かしいもの冷えたものをテッキで焼いたり、メザシなどの魚を焼くときにも使った。
 また、炉の灰の中に埋めてあたためることもあった。中央の火からビリンビとよばれる火のついている細かな炭をかき出し、その下の灰の中に固くなった団子、山から拾ってきた栗などを灰の中に埋めておくとちょうど蒸し焼きと同じようになっておいしく食べることができた。

写真4-43 囲炉裏の周辺


図4-18 上の写真の説明


写真4-44 炉での調理

 自在鉤の上には、藁を束ねたものを吊し、小魚を焼いたものを刺して乾燥させることもあった。この藁の束をベンケイとよぶ家もあった。乾燥させた小魚は正月の煮物などのだしにしたという。