井戸

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昭和三十年代後半以降、少しずつ上水道設備が整い始めるが、それまでの市域の生活水は井戸水と自然湧水に頼っていた。
 井戸は古くは釣瓶(つるべ)井戸が主で、車井戸や、テコを応用した撥(はね)釣瓶井戸もあった。手押しポンプは昭和初期にはすでにあったが、普及したのは太平洋戦争中から戦後にかけてだという。井戸には井戸神(水神)がいると信じられ、正月には幣束を立てたり供物をしたりし、元日の朝にはここから若水を汲んだ。井戸をつぶす時には、神社から受けてきた神札と一緒に、節を抜いた青竹を入れてから土で埋めた。これをイヌキといった。このほか、塩で清めたりお祓いもした。ニュータウン建設のために宅地造成をした地域では、ほとんどの家がこのようにして井戸をつぶしたという。井戸を所有せず、沢水を竹樋を用いて家まで引き入れていた家もあった。また、夏の渇水期に井戸が涸れると、山の清水を汲みに行くこともしばしばだったという。よい水の湧き出る場所には、たいてい水をためる溜が設けられており、ここから柄杓で汲んで家までバケツで運んだ。洗濯などは湧水の近くまで持っていってした。

写真4-66 手押しポンプの井戸


写真4-67 釣瓶井戸

 ナガシは土間の奥のほうかカッテにあり、古くはカッテに置いて坐って炊事をするスワリナガシであったが、のちに台の上に置いたタチナガシになった。ナガシの横には水瓶が置かれ、井戸から汲んできて貯えておいた。水の用意のないのは恥とされたので水瓶にはいつも水が入っていたという。屋内のナガシとは別に、オロシ(庇)の土間や軒下にもナガシがある家もあった。これは野良仕事から帰ったときや外での仕事の合間にすぐ使えるので便利だった。二つある場合には、屋内のをウエノナガシ、軒下などのをシタノナガシ・ソトノナガシとよんで区別していた。