第三節 同族神

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 地域社会の中における神の中には、土地とそこに居住する人々を守護する鎮守神があるが、この鎮守神のほかにそこに血縁を持ち居住する親戚・一族、すなわち同族集団を守護する神もある。この神は同族神と総称されるが、同族神はまたその祀り手によって祭神もさまざまなものとなっている。
 多摩市における同族祭祀を見直してみると、伝承そのものがかなり希薄になっていることもあるが、その事例数の少なさから、血縁を強く意識する、同族祭祀の習俗そのものへの関心が薄い地域だと、結論づけることができそうである。以下、同族祭祀に近似するものも含めて、事例を紹介する。
 和田地区には俗に天王森とよばれる八坂神社が祀られている。これは中和田に住む柚木イッケの氏神だとの伝承がある。かつては七月の最終日曜日を祭日としてイッケで祀りを営んだが、近年は祀りが行われていない。
 東寺方地区の杉田イッケでは、系譜を同じくする杉田姓八軒で、その内の一軒で祀る稲荷社を共同で祀っていた。祭りは二月初午に行い、関係する八軒がそれぞれに五色の紙の幟旗をあげ、その日は一緒に赤飯や煮しめを食した。この集まりも昭和六十年ころにはなくなってしまった。また、同じ東寺方であるが、前述の杉田姓とは系譜を別にする杉田姓四軒も共同で稲荷社を祀ったが、今は特別な行事は行っていない。
 南野の荻久保には萩生田姓が多数居住する。ここに住む萩生田姓は二月初午になると上(カミ)の講中六軒ほどと下(シモ)の講中六軒ほどの二つに別れ、それぞれが所属する稲荷社に参詣しお供え物をし、その日の晩に宿に集まり初午行事を行った(上の講中は区画整理後に共同飲食は消滅、下の講中は固定した宿で継続している)。この稲荷社の祭祀と初午行事は、一見同族祭祀に見える。しかし、稲荷社への集合する原理は親戚・血縁に基づくというよりも、居住する位置によって分けられている。萩生田姓のみであるがためにあたかも同族祭祀に思われるが、その結合はより地縁性の強いものとなっている。