屋敷稲荷

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屋敷神の中で最も多いのが稲荷社である。屋敷稲荷の祀り始めや祀り続ける理由を説明している回答は少なかったが、地守りの稲荷(落合)、養蚕の神様(落合)、おでき(瘡)の神様(落合)、元の領主夫妻を祀る(和田)というものがあった。こうした中で、先祖がかつて稲荷社を不用意に移動したら思わぬ災難を被ったので、区画整理後も元の土地に祀り続けている(貝取)という例がある。このように、稲荷は土地につく神としての性格を強く示すことがある。例えば、関戸で祀られる鈴㟁嵯峨山稲荷大明神は、祠の祀られる敷地が鈴木家二軒と㟁家・嵯峨山家の敷地の境界に当り、この土地を仲立ちとして共同して祀る稲荷とされる。四軒では二月の初午の日に年ごとに宿となるお日待ちを営み祠の祭りとしている。ここには土地に居付く神としての稲荷の性格が如実に反映されている。こうした土地との強い結びつきを持つ神格であるので稲荷社は、家を護る屋敷神として、もっとも親しく祀られる結果になっている。
 屋敷稲荷の祭日についてみると大部分が二月初午で、この日五色の紙の幟や布にかかれた旗を出し、ワラヅトに赤飯を盛り、尾頭付の鰯と油揚げをお供えとする。稲荷を祀らない近所の家からの幟の奉納や油揚げのお供えなどを受ける家もあった。初午の日のタブーを尋ねてみると、朝一〇時まではお茶を飲まない。飲むと馬が暴れる(乞田)。同じく一〇時まで飲まない理由は、火の廻りが早いためである(一ノ宮)。理由ははっきりしないが一日中茶を飲まない(東寺方)というものが確認できた。
 屋敷稲荷の神体は、幣束または狐の神像という回答が多い。その一方、理由については不明であるが、玉石であるというものがほぼ三分の一の五二例となっている。
 次に、屋敷稲荷の呼称についてみると正一位稲荷大明神が多いが、固有名詞を持つ社も数多い。市域の、報告された正一位稲荷大明神以外の固有名詞の稲荷社名を列記しておく。
多摩市域で確認できた正一稲荷大明神以外の稲荷社名
穴守稲荷(三例)、家守稲荷、飯成五社明神、瓜生稲荷、小形稲荷、笠間稲荷、瘡守稲荷、鴎稲荷、川端稲荷、久保稲荷、地守稲荷(四例)、鈴木稲荷、鈴㟁嵯峨山稲荷、正宦稲荷、白笹稲荷(二例)、清光稲荷、妻恋稲荷、遠堀稲荷、豊川稲荷(三例)、中山稲荷、福次郎稲荷、伏見稲荷、宝天稲荷、妙法稲荷、箭弓稲荷


写真5-58 屋敷稲荷


写真5-59 水神様


写真5-60 霊神様


写真5-61 大六天と稲荷