さて、多摩市域におけるかつての暮らしは、自給自足が基本であったといってよい。年中行事の場合も同じことであって、行事を行うために商店へ買物に行くということはごく少なかった。門松のための松の木、アボヘボのニワトコ、繭玉の樫(かし)の枝、ヤキカガシの柊(ひいらぎ)をはじめ、一年間の行事を行うには何種類かの木が必要である。これらの木は、たいてい、庭先や裏山などに植えてあり、それを用いた。茅(かや)、菖蒲(しょうぶ)、ミソハギなどの草や花も、庭先や裏山、田の畦で採ることができた。以前の農家は、農作業のための庭を広くとってあって、庭木や庭石、池を配したような庭園を作ることはまれであったが、庭の隅や境などに、日常の仏壇に飾る花を作っていることが多かった。
図6-1 年中行事関連の場所
①門松(正月) ②アボヘボ(1月14日)
③ヤキカガシ(節分) ④七夕飾り(7月7日)
⑤迎え火(8月13日) ⑥送り火(8月15日)
⑦ヨウカゾウのメカイ(12月8日)
(昭和10年代の落合地区中組峰岸松三家の周辺を聞き書きによって復元)
材料 | 行事と用途 | 場所 |
木 | 松(門松、鬼打ち薪) | 裏山 |
ニワトコ(アボヘボ) | 庭 | |
樫(繭玉) | 裏山 | |
グミ(ヨウカゾウ) | 裏山 | |
柊の葉(節分) | 庭 | |
柏の葉(五月節供) | 庭 | |
南天の葉(赤飯) | 庭 | |
竹 | 盂宗竹(セーノカミ、盆の花入れなど) | 家裏の竹藪 |
篠竹(七夕、盆棚、煤掃き) | 裏山 | |
草など | 茅(セーノカミ) | 茅場 |
菖蒲(五月節供) | 家裏 | |
蓬(五月節供) | 田の畦 | |
ミソハギ(盆) | 田の畦 | |
百合、おみなえしなど(盆、月見) | 庭 | |
藁など | 稲藁(注連縄など) | 田 |
小麦カラ(盆) | 畑 | |
豆ガラ(正月、節分) | 畑 | |
果物、野菜など | 供物の果物や野菜(盆、月見など) | 畑、庭 |
芋の葉(盆) | 畑 |