若水と雑煮

512 ~ 513
元日の朝、家族の中で一番たくさん仕事があるのがトシオトコ(年男)であった。トシオトコは、戸主がつとめた。まず、まだ暗いうちに井戸へ行って水を汲む。この水を若水とよび、若水で湯を沸かし、お茶をいれた。湯が沸く間に、神棚や年神、屋敷神などに燈明やお神酒をあげる。
 正月の三が日は、神ごとは男がするものといって、女性は手を出さないものであった。
 雑煮の汁を作る火の焚き付けには、縁起のよい豆ガラや茄子(なす)ガラなどを使う家もあった。その理由として、次のようなものが伝えられている。
 ・豆ガラ   まめに暮らせるように
 ・茄子ガラ  借金をなす(返す)ように
 ・菊ガラ   よいことを聞くように
 ・柿の枝   かきとるように
 ・樫(かし)の枝   かしこむように
などである。
 雑煮は、大晦日のうちにシタモリ(下盛)という大根と里芋を煮たものを用意しておく。元旦には、シタモリを温めて味をつけ、焼いた餅を入れる。雑煮は、神棚や年神、仏壇にも供えた。神棚と年神には、餅を入れないシタモリだけを供えた家もあった。
 雑煮の用意ができたころに、家族が起きてきて全員で神棚や年神を詣り、雑煮やオセチを食べる。元日の昼食には、オトロご飯といって、とろろ芋を摺りおろして醤油で味をつけたものをご飯にかけて食べる家もあった。オトロご飯を食べると長生きをするという。また、元旦の雑煮を食べるときに、冬至に糠(ぬか)味噌に漬けておいた柚子を薄く切って食べた。
 オセチは、自分の家でとれた野菜を使い、購入するものといえば、豆腐、ちくわ、するめ、蛸(たこ)くらいであったという。
 例えば、落合地区のある家では、煮しめ(里芋、人参、ごぼう、大根、焼き豆腐、ちくわなど)、ゴマメ、人参と大根の酢の物、柚子巻き大根、昆布巻き、百合根のきんとん、煮豆、黒豆、家族用の芋羊羹と来客用の小豆羊羹などを用意した。現在のオセチ料理に比べればたいへん質素であるが、自家製のきんとんや羊羹、煮豆などの甘いものがつくのが楽しみであったという。
 このうち、柚子巻き大根は、薄く切った大根で柚子を巻き、干しておいたものを戻して酢の物にしたものであり、冬至のころに作ったものを使う。