立春の前日が節分である。年越(としこし)ともよばれていた。ヤキカガシを家の入口に掛け、豆まきをした。ヤキカガシは柊(ひいらぎ)の枝に鰯(いわし)の頭を剌したものである。柊の刺と鰯の臭いで鬼が家の中に入ってこないという。まず、囲炉裏で鰯を焙り、大豆を煎った。正月の若水を沸かすときと同じように、囲炉裏には、茄子や大豆、菊などの枯れ枝を焚くこともあった。鰯を焙るときに唾をかけ、唱え言をいうこともあった。「米の虫、粟の虫焼き申す」(落合地区中組)、「粟の虫の口を焼け」(落合地区山王下)、「稲の虫の口を焼け、ダイコの虫の口を焼け、よろずの虫の口を焼け」(一ノ宮地区)、「粟の虫、米の虫、大豆小豆の虫の口を焼く」(『多摩町誌』)などが伝えられている。
写真6-16 ヤキカガシと御嶽山の札
夜になると、用意しておいた煎った大豆をまく。神棚に上げておいた豆は、戸主がおろし、神棚からまき始め、外の納屋や厩にもまいた。大きな声で「福は内、鬼は外」と言いながら、最後に主屋に戻ってまき、鬼が入ってこないように急いで戸を閉める。
煎った大豆は年の数だけ食べるものだといった。豆を入れた茶を福茶といい、福が授かるように家族で福茶を飲むこともあった。また、雷よけになるといって、瓶に入れてとっておき、雷が鳴ったときに、蚊帳(かや)の中で食べたこともあったという。