年中行事は、自分の住んでいる村や家だけで行うものばかりではなく、よその町や村へ出かけていくものもあった。代参講が出かけた榛名(はるな)神社(群馬県)などを別にすれば、年中行事として出かけていくのは、徒歩または自転車で行くことができる範囲であった。その中で、もっとも行く機会が多かったのは府中市の大国魂神社である。暗闇祭、すもも市、境内の鷲(おおとり)神社で行われる酉の市、年末の晦日市などがあった。また、参詣をすませると境内の露店や参道の商店で買物をするのが常であったという。以下、月日を追って記述する。
まず、一月には、初観音や初不動がある。大塚(八王子市)の初観音には草競馬も行われた。初不動は、麻生(川崎市麻生区)の不動を信仰する家が多く、この不動は子どもを火傷から守ってくれるという。穴あき銭と護符をいただいてくる(五二三ページ参照)。高幡不動(日野市)ではだるま市がたった。高幡不動は、一月と九月が縁日である。
五月五日には大国魂神社の暗闇祭である。多くの人で賑わい、とくに一ノ宮地区からは参詣に行く人が多く、この日、ムラはからっぽになるといわれた。七月二十日はすもも市がある。すももや桃が売られ、これを食べると魔よけ、疫病よけになるという。この日大国魂神社で烏うちわを売る。魔よけになるといい、玄関にさしておく。
お十夜の、大善(だいぜん)寺(八王子市)の法要には境内近くに芝居小屋や露店が出て賑わった。また、乞田地区の永山では、昭和初期まで、十一月十五日に女性たちが九品仏(くほんぶつ)様(世田谷区浄真(じょうしん)寺)へ参詣に行った。
酉の市は、鷲神社へ行き、縁起物の熊手を買った。茹でたヤツガシラを売っており、これを食べると「カシラになれる」などという。
冬至は妙見様(稲城市百村)へ行き、星祭の厄払いをしてもらった。晦日市は大国魂神社(府中市)へ行った(本文参照)。