実際に出産を行う場所は、ヘヤ・ナンドとかウラザシキなどと呼ばれる決まった部屋で、そこは、裏側のうす暗い部屋である。出産に際しては、畳を上げるところと上げないところとがある。畳を上げた家では、藁を敷きあるいは藁の小束二一把を重ね、これに寄りかかって出産し、一日一把ずつ抜き捨てて、最後の一把が取り除かれたら初めて起きられることになる。筵(むしろ)や藁の上に、着物のボロなどを綴じておいて布団がわりにしたものを、サンブトンなどという。これは畳半畳くらいの大きさで、あまり汚れていなければ洗って干しておいて次の子の出産のときにも使った。また、オサンザブトン(お産座布団)とかジョクブトン(褥布団)と呼ばれる小さな布団を敷いた。これは、三〇センチ四方くらいの大きさの座布団で、なかに油紙を入れ、その上にタオルや襦袢(じゅばん)のボロ布を入れて作った。この上で出産を行い、そのまま汚れ物をくるみ麻の紐で縛って畑の隅などに埋めた。産婦の枕元には守り刀をおき、取り上げは近所のおばあさんが行った。
図7-1 人生儀礼と住居
△ 出産 |
1 | 出産する |
2 | エナを埋める | |
□ 結婚 |
1 | 盃事(アイサカズキ・オヤコノサカズキ・キョウダイサカズキ) |
2 | 披露宴(ヒロメ)を行う | |
3 | 婿・お客が入る | |
4 | 嫁が入る | |
○ 葬儀 |
1 | 湯灌の湯をすてる |
2 | 葬式を行う | |
3 | 出棺 |
女性は、普段は陣痛がくるまで働いていた。かつては、動かないと出産に良くないといわれ、出産の直前まで井戸からの水汲みなどを行っていた。
お産が始まると腰の方から痛みがくるが、これを「ムシが病める」という。ムシを病み始めたら出産をする場所に行った。出産のときに苦しくて声を出したら恥だといわれ、じっと痛みをこらえたという。また、障子の桟が見えなくなるくらいに痛みがひどくなるまでは、子どもは生まれないといわれた。
お産が長時間に及び、二から三日もかかる人のことを、ネムリゴシ(眠り腰)といった。眠くなるくらい長時間かかっても生むのだという。