父母から聞いた話

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落合地区中組の峰岸松三氏は大正十一年生まれであって、父七之助(明治二十二年生まれ)や落合地区の先輩から聞いた話を自著『落合名所図絵』『落合風土記』などにまとめている。
 七之助は、篤農家であって、大正二年に兵隊から帰ってきてから昭和三十五年に亡くなるまで、日記を欠かさなかった。七之助の家には、乞田(こった)地区から嫁にきた曾祖母のナツがおり、七之助はナツから多くの話を聞いていたという。ナツは、「物知りばあさん」と近所からよばれるような人であったが、八〇歳のときに突然目が見えなくなり、亡くなる直前の九〇歳のときに再び見えるようになった。目の見えないナツの世話をしたのが七之助であって、この間、七之助はナツからいろいろな話を聞いたという。
 七之助は、ナツから聞いた話を長男である松三氏に、メカイを作りながら、米をつきながら、田畑まで歩きながら、聞かせたものだという。七之助から聞いた話は、地域に伝わる伝説や歴史の話が多かった。
 松三氏は、母親からも聞いている。母親から聞いた話は、桃太郎、舌切り雀、猿蟹合戦、一寸法師、兎と亀などであり、囲炉裏端や寝床で聞いたという。また、由木(八王子市)の母方の親戚から話を聞くこともあった。
 また、松三氏は、青年時代に、地域の古い話を聞き歩いたこともあった。近所にあった糸の揚場(あげば)には、昔のことをよく知っている人がおり、そこで手伝いながら話を聞いたこともあったという。
 松三氏が、このような若いころに聞いた話を伝え始めたのは、今までに紹介してきた人々と同じく昭和五十年代になってからであり、語りではなく、書くという方法によるものであった。