〈蕨の恩〉

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春になってハガチ(ムカデのこと)が昼寝をしていると、太い針のように先がとがっているチガヤ(茅)が伸びてきて、ハガチを突き剌してしまった。ハガチが身動きがとれなくて困っていると、下から蕨(わらび)が拳(こぶし)のように伸びてきて、ハガチの胴体を押し上げ、チガヤから抜き取ってくれた。ハガチは家来のハガチたちを集めてこれからは蕨の恩を忘れてはいけないといったという。それで、今でもハガチに刺されたときには、蕨の根をもんで傷口につけ「ハガチよハガチ、蕨の恩を忘れたか」と三回唱えるとよいという。(要旨)

(落合 峰岸松三)

 「蕨の恩」の話は知らなくともハガチに刺されたときには蕨の根を叩いてつけるとよいことを伝えている人もおり、「蕨の恩を忘れたか」の部分を呪いの文句として覚えている人もいた。また、ハガチが潜んでいるようなところでは蕨がよく採れたという。

写真8-2 蕨採り(昭和57年)