〈蛇婿入り〉

616 ~ 617
山の中におふくろと娘と住んでいて、そこへ夜になると、どこの者かはわからないが、若い衆が遊びにくる。不思議なことに戸をみんな閉めていても来る。どこから来るのかはわからない。それで、針に糸を通しておき、若い衆の着物につけた。するとその糸は、戸の節目からずうっと出ていき、山の中の木のボクの中へ入っていった。そこで中の声を聞いていると「蛇は、鉄(刃物)が体の中に入ると体が腐って死んでしまう」と言っていた。娘はすでに妊娠してしまっていたので、おふくろと蛇と蛇のおふくろが話をし、婿にもらってもよいといったが、蛇は針が刺さっているので死んでしまうので、娘にお産の仕方を教えるといった。お産はどうするかというと、蛇の子供なので、たらいへ蛙(かえる)をいっぱい入れて、その上へ座っていれば、蛇が蛙を飲むといって飛び出してくるから、そういうふうにやれといったという。(要旨)

(南野 萩生田常一)

 「蛇婿入り」は、異類婚姻譚(いるいこんいんたん)のひとつである。一般には、糸をたどっていき、蛇の親子の話を立ち聞きし、蛇の子を堕(お)ろす方法を知るという話が多いが、ここでは、「婿にもらってもいい」とか「お産の仕方を教える」というなど、蛇も人間も善意のある描き方をされている。