〈和尚と小僧〉

620 ~ 621
昔、この村のある寺に和尚さんと小僧が住んでいた。ある日、ぼた餅をもらったが、和尚さんは欲が深く、小僧に留守中手をつけてはいけないといって出かけていった。小僧はぼた餅が食べたくて、つい一つ、二つと手をつけ、全部食べてしまった。小僧は和尚さんに叱られないように一計を案じ、本尊の仏さまの口もとに餡をつけ、和尚さんの帰りを待った。帰ってきた和尚さんはぼた餅がなくなっていることにたいへん腹をたてたが、小僧は「和尚様、仏様の口もとを見てください。餡がついていますよ」という。なるほど、この仏様が食べたのかと、和尚さんは仏様を棒でなぐったら、金でできている仏様はクワーンクワーン(食わん食わん)と泣かれたという。

(関戸 井上正吉『多摩の民話』所収)

 「団子婿」と同じように、近隣でもひろく伝えられている話である。一般には、この後段として、白状させようと、仏様を鍋に入れて煮たところ今度はクッタクッタ(食った食った)と言ったという話がつく。
 「団子婿」や「和尚と小僧」のような笑い話は、メカイ作りなどのときに聞かされてよく笑ったという人もいるが、そのときに笑って終わることが多く、現在でも話すことができる人はたいへん少ない。