狐が憑(つ)くことを狐たかりといった。狐に憑かれてしまうと「寝かせても、暴れて飛び上がってしまう(落合)」「鏡台をガタガタと揺らす(落合)」「食事をさせても、食べてないという(落合)」「線路へ出てしまう(一ノ宮)」など、通常とは違った行動をする。さらに、狐にたかられた人の着物や寝具には毛がたくさんついていたり、「おなかがもぞもぞしたかと思ったら、毛が出てきた」などという。
このように人に憑依(ひょうい)する狐は、普通の狐ではなく、たいへん小さくて、人間のふところや喉(のど)のあたりに住んでいるとも伝えられている。ふところや喉に潜み、食事を横取りするため、狐たかりの人は自分が食べることができない。この狐をおとすには、しばらく食事を与えず、狐を弱らせ、枕元で「いくらここにいても食事はやらないぞ。食事はどこそこに置いてくるからそこへ行け」といい、村境など指定した場所に、油揚げや魚、酒などを置いてきた。このように送り出すことを「狐のまつり出し」といい、昭和二十二年ころにも、寿司、秋刀魚(さんま)、ご飯、酒を入れた湯呑みをのせた膳が、辻に置いてあったのを見たという。
ほかに、狼の皮や狐のケバが狐たかりを治すのに効き目があるといった。狐のケバとは、ホウシの玉ともいわれ、動物の毛のようなものだったという。落合地区には、どこからか拾ってきて祀っている家があり、狐たかりの人が出るとその家から狐のケバを借りたという。