狸の八畳敷

631 ~ 632
ある家にじいさんとばあさんがいた。その家に狸が遊びにきた。寒いので火に当たらせてやったが、そのうちに狸とばあさんが仲よくなってしまった。怒ったじいさんは、焼き火箸を狸のきんたまに突き通してしまった。狸はキャンキャンと鳴きながら飛び出していった。その後、その家の子孫にきんたまの出た(脱腸の)男の子が生まれた。狸の祟りだと恐れ、狸に似た石を探し、神主を頼んで拝んでもらったら、その男の子もいくらかよくなったという。

(落合 男 明治生まれ)

 八畳敷というのは、狸が広げた陰嚢(いんのう)のことをいう。落合地区では、ある家にあった実話として伝えられているが、「狸の八畳敷」の話自体は、全国各地に分布する昔話である。全国的には、狸または人間にばけた狸が、陰嚢をやけどする、斬られて死ぬという筋立てになっている。
 ほかにも、次のような話が伝えられている。
 昔、古狸が住んでいて、ものしりのおばあさんにやりこめられたという話がある。古狸はそのおばあさんを脅かそうと家にやってきて「火にあたらせてくれ」という。おばあさんが中に入れてやると、「おばあさん、世の中には狸の大ふぐりという諺があるが見たことはあるか」と聞く。「見たことない」と答えると「それなら見せてやろう」と自分の大ふぐりを広げ、おばあさんを包むようにした。翌日も来て、おばあさんを脅かす。そこでおばあさんは、囲炉裏の中に石をくべて待っていた。やがて狸が来て、また同じように大ふぐりを広げた。そのときに、おばあさんは火にくべておいた石を火箸ではさみ、「それ、ヤキモチをやるぞ」と狸の大ふぐりの中に投げ入れた。狸は泣きさけびながら山へ逃げ帰り、二度と里へは降りてこなかったという。人間はいざとなればこのおばあさんのように気を強くもって悪者を懲らしめなければならない。(『多摩の民話』)